上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

ハイブリッド手術は高齢患者の夢をかなえることができる

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 このような場合、まず要所にだけバイパスを作っておいてからTAVIで弁交換を行い、その後で再び必要なバイパスを作るケースもありえます。ただ、それでも人工的に弁を設置するわけですから、心臓を持ち上げるなどして不自然な状態にすることはなるべく避けなければなりません。ですから、最初に必要なところにバイパスを作ってからその後にTAVIを実施する選択をしたのです。

 ハイブリッド手術は問題なく終わり、心臓そのものはすぐに回復するでしょう。ただ、開いた胸の傷がしっかりくっつくまでは2カ月くらいかかります。また、狭心症と大動脈弁狭窄症の影響で全身が弱ってしまっていたので、ゴルフができるようになるまでは、リハビリで体力を取り戻す必要があります。

 とはいえ、これが心臓を止めた状態でバイパス手術と弁の交換を行っていたとすると、日常生活に問題がないくらい回復するまで半年以上はかかるでしょう。

 ハイブリッド手術によって早い回復が見込める88歳の患者さんと、一緒にゴルフができる日が今から楽しみです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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