アウトドアブームで要注意の「毒虫」はマダニだけではない

キャンプでも注意を(写真はイメージ)
キャンプでも注意を(写真はイメージ)

 今年のゴールデンウイークは、長い人で11連休になるとか。新型コロナウイルスのこともあって、ハイキング、登山、キャンプなどを計画している人も多いだろうが、アウトドアにもそれなりの危険が潜んでいる。最近は、毒虫の被害が増えているので要注意だ。

 噛まれると「重症熱性血小板減少症候群」を引き起こし急死することもあるマダニは別として、たいていは刺されたり噛まれたりしても、命を落とすようなことはないが、強烈な痛みやかゆみに襲われたり、血まみれになったりと、台無しな気分にさせられる。

 長浜バイオ大学(医療情報学)の永田宏教授に聞いた。

 毒虫の中で、近年注目株のひとつとされるのが「ヤケドムシ(アオバアリガタハネカクシ)」だ。

「ヤケドムシは、体長6~7ミリのおとなしい昆虫です。ところが体内にペデリンという強力な毒を持っているのです。たまたま顔や腕にとまったところをサッと払いのけようとすると、軟らかい体が簡単に潰れて、毒液が皮膚に線状に付着します。するとその痕がヒリヒリと痛み、赤く腫れて水ぶくれになってしまいます(線状皮膚炎)。それがヤケドの症状と似ているので、ヤケドムシと呼ばれているわけです」

 1970年代までは、全国の田んぼなどに普通に生息していた。しかし農薬や自然破壊で平地から姿を消し、山奥の渓流沿いなどで息を潜めていた。それが最近になって、キャンプ場や屋外のバーベキュー施設などを利用する人が急増したために、“ヤケド”を負わされる人が続出し、再び注目されているというわけだ。

「見つけても手で払わず、息を吹きかけるなどして追い払えと書かれているのですが、はたしてアウトドア慣れしていない人が、初見で見分けることができるか、いささか疑問です。長袖、長ズボンで、首にはタオルを巻くなど、肌の露出をできるだけ減らす工夫をしたほうがいいでしょう」

■シャツが血だらけになるケースも

 動物の血を吸うヒルの被害も増えているので注意したい。

「ただし、昔はヒルといえば淡水に暮らす、黄緑色のチスイビルのことを指しました。水田などによくいたのですが、農薬によって激減し、いまではほとんど見られません。京都府が準絶滅危惧種に指定したほどです。そのチスイビルに代わっていま注目を集めているのは、ヤマビルという、陸にすむヒルです」

 このヒルはその名のとおり山奥にしか生息しない珍しい生物だったが、1990年ごろから全国的に増え続けている。狩猟制限などにより、野生動物が増えたことが原因だ。

「とくにシカはヤマビルにとって格好の餌食であると同時に、便利な移動手段でもあります。いまや首都圏でも、房総半島や神奈川県の丹沢山地などが、広範囲にわたってヤマビルの生息域になっています。彼らは普段、枯れ葉などの下に隠れていますが、人が近づくと、呼気の二酸化炭素や体温、振動に反応して、急いで出てきます。そして靴や衣服の中に潜り込み、食事(吸血)を始めるのです」

 ヤマビルの唾液にはヒルジンという物質が含まれている。血液凝固を防ぎ、しかも鎮痛作用があるため、吸血されてもなかなか気づきにくい。

「彼らは30分以上かけてゆっくりと食事をし、満腹になると離れていきます。一方、吸血されたほうは、傷口にヒルジンが残っているため、血がなかなか止まらず、ジワジワと出血が続きます。トータルの出血量はせいぜい数㏄と、大したことはありません。しかし、血液が汗などの水分でのばされると、大量出血のように見えてしまいます。靴下やTシャツが血まみれ状態になって、大騒ぎになるというわけです」

 ヤマビルに気づいたら、ためらわず皮膚から引きはがし、傷口のヒルジンをきれいな水で洗い流すことだ。そしてアルコールなどで消毒し、絆創膏を貼っておけば安心だ。

「ヤマビルがなにか悪い病原菌やウイルスを媒介することはありません。その点、さまざまな人獣感染症を媒介するマダニよりはマシといえるでしょう。ただし、傷口がかゆくなることがあるので、かかないように注意しなければいけません」

 最近は、登山者などがヤマビルを付着させたまま下山して、住宅街にまでヒルが出没する被害が出ている。昨年は小田急線の秦野駅(丹沢山地の登山口)にヤマビルが数十匹出現し、駅員がガスバーナーで焼き殺すという騒ぎになった。

 ディート入りの虫よけスプレーはある程度の吸血を防ぐことができる。ヤマビルが多くいるところに行く際には、携行しておくと安心だ。

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