睡眠不足はがん、認知症、糖尿病、うつ病のリスクを上げる

幼児から成人まで世界で最も睡眠時間が短い
幼児から成人まで世界で最も睡眠時間が短い(C)日刊ゲンダイ

 マットレスブランド「エマ・スリープ」の調査では、不眠が原因の事象の認知度として、集中力低下やストレス増加は上位に挙がったものの、重大病のリスクを増大させることを認識している人は少なかった。睡眠不足の弊害と対策について、江戸川大学睡眠研究所の福田一彦所長に聞いた。

 福田所長によれば、日本人の睡眠時間は幼児から成人まで年齢と関係なく世界で最も短く、どの年齢層でも他国と比較して1時間から1時間半ほど短い。短い睡眠時間は日中の眠気を招き、生産性・学習能力を下げる。長期的には、肥満、糖尿病、高血圧といった生活習慣病のリスクも増す。

「がんや認知症のリスクを上げることも研究で明らかになっています。また、睡眠障害からうつ病に至るケースがあることも分かっています」

 短い睡眠時間対策として多くの人が行っているのが週末の寝だめだ。

「寝だめで週末だけ睡眠時間が長くなると、肥満や慢性疾患のリスクが高くなります。われわれが幼児を対象に行った研究では、平日は早寝早起き朝食も早い生活で、休日は遅寝遅起き朝食が遅い幼児は、常に遅寝遅起き朝食が遅い幼児と同様、不調に陥りやすいとの結果が出ました」

 睡眠不足は睡眠リズムの乱れに容易に結び付く。前述の通り、「平日睡眠不足」→「週末は夜更かし朝寝坊」→「睡眠のリズムが後ろにずれる(時差ボケのような状態)」となるからだ。

 寝だめがダメなら、昼寝はどうか――。

「ありがちなのが、暗い部屋でベッドに横になって取る昼寝。これでは深い眠りになって夜眠れなくなり、睡眠リズムの乱れにつながります。昼寝をするなら、寝やすい環境は絶対に避け、短時間仮眠が鉄則です。明るい部屋で椅子に座ったままデスクに突っ伏す感じで10~15分ほど」

 ただし、「短時間仮眠」は窮余の策。まずやるべきは夜の睡眠時間の確保だと、福田所長は強調する。米国の「ナショナル・スリープ・ファンデーション(国立睡眠財団)」が推奨する睡眠時間は、成人で7~9時間。小学生は9~11時間、中高生は8~10時間。これを下回っていれば、生活の見直しを図る必要がある。

「現代の日本人は子供の頃から睡眠不足で、それがずっと続いている。つまり睡眠不足の長期的弊害をすでに被っていて、肥満、生活習慣病、がん、認知症のリスクはだれにでもあるのです」

 一刻も早い睡眠習慣の改善が求められる。

 就寝時間を早く、また質を高める方法としては、夕食時間を早くする、入浴は就寝の2~3時間前、寝る直前に激しい運動はしない、夜にスマホやパソコンは極力見ない、起床時は太陽の光を浴びるなどがある。

■照明を変えるだけで就寝・起床時間が早くなる

 福田所長が勧めるのは、自然と眠くなる部屋づくりだ。

 日本は白く明るい照明が一般的だが、これらはブルーライトを含み、目から入って脳の生体時計に直接働きかけ、眠りを妨げる。暗い赤っぽい照明や間接灯の利用で眠りやすくなる。

「私が行った研究では、リビングまたは寝る時間の2時間前に過ごす部屋の照明を暗く赤っぽい照明に変更した群は、就寝時間、起床時間がともに早くなり、精神健康度が有意に向上しました」

 暗い部屋で本を読むと目が悪くなると思われがちだが、眼精疲労には関係あるものの、視力低下との関係を示すエビデンスはない。

 寝具が睡眠時無呼吸症候群(SAS)や腰痛などを悪化させている人も。

 冒頭の「エマ・スリープ」は、マットレスに100日間のお試し期間を設けている。そういったサービスを利用して、自分に合った寝具を選ぶのも手だ。

■専門医に診てもらうことがベスト

 不眠対策に睡眠の質を下げる飲酒はNG。睡眠の悩みを抱える人は、SASなどの病気の可能性や、時には睡眠薬を頓服的に使う必要がある。医療機関の受診を。

「睡眠の専門知識を持つ医師にかかることがベストです。日本睡眠学会のホームページで専門医の認定を受けている医師を選ぶことをお勧めします」(福田所長)

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