最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

患者のQOL維持が何より重要 食事も好きなものを好きな時に

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 病院から在宅医療に切り替えた患者さんやご家族から「病院食は食べられなかったけど、自宅に戻ったら少し食べられるようになりました」といった声をよく聞きます。

 私たちの診療所には、診療パートナーというスタッフがいます。看護師、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士、救急救命士、管理栄養士といった医療資格者で構成され、医師の診療補助のほか、患者さんが少しでも快適に過ごせるように、療養生活全般にわたってアドバイスを行います。

 たとえば、咀嚼に問題がある患者さんに対しては、どういったものを食べたり飲んだりすればいいかなど、言語聴覚士や管理栄養士らが必要に応じてアドバイスします。

 食の好みひとつとっても患者さんごとに異なりますから、自宅にある食品などを確認し、普段この患者さんがどんな食べものを、どのように食事されているのかをチェック。その上で、誤嚥を起こさず楽しく食べるための工夫を提案します。背中にクッションを当てるだけで、のみ込みがうまくいくこともあるので、そういう場合は「ここに、このようにクッションを置いてみてください」などと具体的に伝えます。

 読者の中には、「健康体ではないのだから、食べたいものは我慢するのが当たり前」と考える方がいるかもしれません。しかし、在宅医療ではそうではありません。

 在宅医療で重要視しているのは、患者さんのQOL(生活の質)をなるべく落とさないこと。そのために常に患者さんに寄り添い、話し合い、すり合わせながら対処し、改善していきます。特に、食べることは患者さんにとってとても大切な要素。だから、患者さんが安全に食べたい食事をできるように、患者さんの生活全体を見ながら、私たちはできる限りのことをするのです。

 印象に残っている患者さんがいます。その方は70代後半の男性で、大腸がんの摘出手術を受けたものの、がんが骨転移。当初は化学療法をしていましたが、そのために入院中は日常的に食事があまり取れなくなり、点滴をする生活を送っていました。しかしやがて本人の希望で退院し、在宅医療に切り替えることとなりました。

 在宅医療が始まった初日、私たちは患者さんの要望を聞くことから始めました。ご本人の意思ははっきりされており、開口一番「化学療法による食欲減退だけでなく、そもそも病院での食事が口に合わなかった」「味も何もしなくて、もういらないとなってしまう」「口から食べる楽しみを味わいたい」とおっしゃいました。

 そこで抗がん剤の副作用を減らし、食事ができるように薬などを調節。好きなアイスやヨーグルトを食べられるようになり、「口から食べる生活」をみとりギリギリまで送られたのです。ご家族によれば、患者さんが最後に食べた食事は、梅干し入りの白いおかゆだったそうです。

 このように、みとりの最後まで患者さんの生活を見守るのが在宅医療なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

関連記事