独白 愉快な“病人”たち

このまま逝くかもしれない…山折哲雄さん肺炎を振り返る

山折哲雄さん(C)日刊ゲンダイ

「医学ってのはすごいものだな」と思ったと同時に、長年患ってきた消化器系の病気と、心臓や肺といった循環器系の病気の違いを実感しました。消化器系は鈍痛、疼痛、激痛の連続で、「存在の重さ」をしたたかに感じさせられるものでしたが、循環器系では空気が薄くなるというのか、体が軽くなる瞬間がところどころにあって「このまま死ぬのも悪くないな」と、そんなことも考えました。

■身軽になるのは難しい

 肺炎でも苦しい呼吸の中で、やはり、ふとロウソクの火が消えるように逝ければいいなと、今度は「存在の軽さ」に思いを馳せ、存在を軽くすることがよりよく生きて、よりよく旅立てることなのではないかと考えるようになっていました。

「身軽」になることはなかなか難しいことです。「断捨離」という言葉がはやっていますが、物を捨てたからといって身軽になれるわけではなく、物心両面の身軽さというのが真の軽さ。身に付けてきた知識や哲学や信仰さえも荷物であり、重さとなっているのではないですか。こだわっているものから解放されて全部空っぽになればどんなに軽くて楽なことか。

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