手術は、全身の血液を体外に誘導して人工心肺装置で臓器の循環維持・酸素化と冷却を同時に進めながら体温を28度まで下げ、血液の循環を一時的に止めた状態で処置をする「低体温循環停止法」を実施しました。以前は体温を20度まで下げる超低体温法が一般的でしたが、28度に抑えることでほかの臓器に与えるダメージや出血が少なくて済むのです。
ただ、その患者さんは動脈瘤の手術に加えて3カ所の冠動脈バイパス手術が必要で、さらに動脈瘤のある位置が深かったため、手術が4時間以上に及ぶことが予想されました。さらに循環を止めている時間が長くなれば、脳に大きなダメージを与えてしまいます。そこで、低体温にして心臓を止める前に、まずは脳の血流だけを確保する方法を選択しました。首の頚動脈に直接、人工心肺装置をつないで脳の血流はしっかり維持するのです。
そうやって脳を保護してから体温を下げ、心臓の動きを止めて動脈瘤の処置をします。ただ、この患者さんは動脈瘤が背中側へ大きく張り出していて気管や食道を分離する必要があっただけでなく、血管がこぶ状に大きく太くなった結果、周囲の重要な神経やリンパ管に癒着している状態でした。動脈瘤ができている血管を切除して人工血管に交換するには、周囲の組織にくっついてしまっている脈管を丁寧に剥離しなければなりません。しかも、深い位置にあるので他の臓器をうまくよけながら処置する必要がありました。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」