上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

大動脈瘤に加えほかの手術を同時に行うケースが増えている

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 ヒトの胸の中には、心臓以外は肺、気管、食道しかないのですが、他に全身につながっている神経が通っています。もしもそうした神経を傷つけてしまうと、術後にさまざまな後遺症が残ってしまうケースがあります。「嗄声」という声がかすれる症状が出たり、のみ込みが悪くなったり、むせやすくなったり、横隔膜の障害が残る場合もあるのです。

 その患者さんはまだ60代ですから、手術によって脳のダメージも含めた後遺症が残ると、その後の長い人生を、さまざまな生活制限の下で過ごすことになってしまいます。動脈瘤が破裂して突然死する危険がなくなったのだからそれでいいと考える人もいるでしょう。しかし、手術によって生活の質が下がったまま残りの人生を過ごすようなことになれば、手術した意味がなくなってしまうと私は思うのです。

 ですから、個別に脳の血流を確保した低体温循環停止法を選択し、さらにはいつも以上に手術の“出来上がりの形”を重視して手術を行いました。その結果、嗄声や神経系の後遺症もなく、術後の心機能も良好で、自分でもほぼ完璧な手術ができたと感じています。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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