進化する糖尿病治療法

下戸なのに肝臓がん…脂っこい物が好きな人は超音波検査を

下戸でも脂肪肝になることも…
下戸でも脂肪肝になることも…

 肝臓に脂肪が多くたまった状態を脂肪肝といいます。「肝臓病=お酒を飲む人の病気」という印象が強いのか、「お酒を飲まなくても脂肪肝になることがあります。治療せずに放置すると、肝硬変や肝臓がんになるリスクがありますよ」と言うと、驚く患者さんが少なからずいます。

 脂肪肝には、アルコールを過剰に摂取する人がなるアルコール性脂肪肝と、アルコールを一切飲まない、またはアルコールを摂取するけれど肝臓に障害を及ぼすほどではないのに発症する「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」があります。「NAFLD」は「ナッフルド」と読みます。

 アルコール性の場合、男性なら、ビール大瓶1本強、日本酒1合半、ワインならグラス2杯半以上飲む人が高リスクとなりますので、NAFLDは、それよりもアルコール摂取量が少ない人(女性は、男性の3分の2の量より少ない人)となります。

 NAFLDの原因の多くは「アルコール以外」。具体的には肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧など。2型糖尿病患者は肥満、脂質異常症、高血圧を併発している人が圧倒的に多いですから、NAFLDのリスクが高い。一方で、脂肪肝が糖尿病を発症させているという見方もできます。肝臓に脂肪が沈着するとインスリン抵抗性になり、糖尿病を引き起こすからです。

 昨年1月に「Diabetes Care」オンライン版に掲載された内容によると、米国ではNAFLDを併発した2型糖尿病患者の増加に伴い、今後20年間で推計6兆円の医療コスト負担が発生し、肝移植の手術件数や心血管死の増加などが予想されるとのこと。日本でも糖尿病患者は増えていますから、今後NAFLD併発患者が増加していくことは容易に考えられます。

■症状が出てからでは手遅れ

 NAFLDは、80~90%が脂肪肝のままで、病気はほとんど進行しません。しかし10~20%の人は少しずつ悪化し、肝硬変に移行。さらには肝臓がんを発症する人もいます。

 この徐々に進行し、肝硬変、肝臓がんへと移行する可能性のある脂肪肝を「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH=ナッシュ)」といいます。前述の米国の発表では、NAFLD併発2型糖尿病患者は推計1820万人、すでにNASHに進行している患者は推計640万人。臨床の現場では6万5000件の肝移植が必要になり、137万件の心血管死、81万2000件の肝臓病関連死が発生するだろうと指摘されています。

 NAFLDを早期発見し、NASHにならないようにするにはどうすればいいか? 肝臓は沈黙の臓器とよくいわれる通り、自覚症状はほとんどありません。NAFLDはもちろん、NASHであっても、かなり進行しない限り、目立った症状はないのです。

 黄疸、足のむくみ、腹水などによるお腹が張った感じなどが出てくるのはNASHを発症し、肝硬変まで進行してから。肝臓病はある段階を過ぎると治療で健康な状態に戻すことは難しくなりますから、これらの症状が出る前にNAFLD、NASHを発見し、治療を開始しなくてはなりません。

 そのためには、超音波検査やCT検査などの画像検査が必要。これで脂肪肝の所見があり、ほかの肝臓の病気がなければNAFLDの診断になります。NASHの場合は肝臓の一部を針で採取して顕微鏡で観察する肝生検が確実な診断法になります。

 2型糖尿病の人は、NAFLD、NASHのリスクが高いため、定期的に超音波検査を。採血で肝臓の数値であるGOT(AST)、GPT(ALT)もチェックします。これらが高くなると、NASHが疑われます。NAFLD、NASH治療は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧治療と、食事療法や運動療法改善の2本柱になります。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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