世界初 アルツハイマー病を「治す薬」が日本でも承認申請へ

アルツハイマー病は認知症の6~7割を占める
アルツハイマー病は認知症の6~7割を占める(C)日刊ゲンダイ

 昨年末、アルツハイマー病の進行へ直接介入することを目的に開発された「アデュカヌマブ」が、米国などに続き日本でも承認申請された。承認されれば、アルツハイマー病の世界初の根本治療薬(疾患修飾薬)となる。日本認知症学会理事長で、東大大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学分野教授の岩坪威医師に話を聞いた。

 アルツハイマー病で従来承認されている薬は症状を緩和させるが、病気の進行は止められない。しかも、効果がある期間は限定的だ。

「一方、アデュカヌマブはアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの脳内レベルを下げる働きがあります」

 アミロイドβは健康な人の脳にもあるタンパク質で、通常は短期間で排出される。ところが何らかの原因でアミロイドβが脳内に蓄積するようになると神経変性が起こり、神経細胞が死んで脱落。アルツハイマー病の症状が出てくる。アミロイドβの蓄積は、アルツハイマー病と診断される20年前から始まるといわれている。

「アデュカヌマブがアミロイドβの脳内レベルを下げ、神経変性を抑制し、アルツハイマー病の進行を遅らせます。2つの臨床試験のうち一方では、78週投与で認知機能低下がプラセボ群より22%抑えられました」

 もう一方の臨床試験では主要評価項目をすべて達成できなかったが、アデュカヌマブを開発した米バイオジェンとFDA(米食品医薬品局)の解析で最高用量を一定回数以上投与された人だけを抜き出すと、2つの臨床試験とも同様の認知機能低下の抑制効果が見られた。

 厳密には臨床試験は2つとも評価項目をすべて達成しなければならないところ、1勝1敗の結果。FDAはポジティブな面を重視しようとしているが、“肩入れし過ぎなのでは”との批判もある。昨年11月のFDAの外部諮問委員会では、承認すべきでないとの意見が大差で出た。アデュカヌマブは承認されるのか?

「FDAが追加のデータをバイオジェンに要請して、承認か否かの期限を当初の3月7日から3カ月先に延ばしました。日本でもアデュカヌマブの審査が始まっていますが、米国の結果を踏まえた上で承認か否かが決まるでしょう。どういう判断になるかは現時点では想像がつかない。承認されたとしても、薬を臨床で使える時期は予定より遅れることは確かです」

■ごく早期に発見できる検査法も確立

 ただ、アルツハイマー病の治療薬として開発が進んでいるのは、アデュカヌマブだけではない。エーザイ主導でバイオジェンがパートナーとなって開発された「レカネマブ」の第3相臨床試験(最終段階の臨床試験)がすでに開始されている。

 スイス・ロシュの「ガンテネルマブ」も第3相臨床試験中。米イーライリリーの「ドナネマブ」は第2相臨床試験(第3相臨床試験の前の試験)でポジティブな結果が出ている。

「アデュカヌマブやレカネマブは、何割かがアルツハイマー病に移行する軽度認知障害(MCI)やごく早期のアルツハイマー病が対象です。これらの治療薬が有効に使われるためには、MCI以前の段階でアルツハイマー病の原因物質アミロイドβの蓄積をチェックし、アルツハイマー病に移行するリスクが高い人を見つけ出すことが必須。そのための検査法も確立されつつあります」

 岩坪教授は、認知症発症の危険度を予測する方法の開発を目指す「J-TRC」も実施。ホームページ上(https://www.j-trc.org)ではインターネットを介した簡単な検査で認知機能をセルフチェックできる。

 高リスク群に根本治療薬をより早く投与できるようになれば、アルツハイマー病を発症せずに寿命を全うできる可能性も出てくる。やがては、「アルツハイマー病は根治可能な病気」となるかもしれない。

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