進行した膀胱がんの新治療薬が承認 2年以上の生存期間に期待

男性の方がリスクが高く、好発年齢は50歳以降
男性の方がリスクが高く、好発年齢は50歳以降(C)日刊ゲンダイ

 尿路上皮がんは尿の通り道の内側にできるがんの総称で、発生する場所で膀胱がん、腎盂がん、尿管がんなどに分けられる。今年2月、進行した尿路上皮がんの新たな治療薬が承認された。尿路上皮がんで圧倒的に多いのが膀胱がんで全体の90%を占めるが、今後、膀胱がんの治療はどう変わるのか? 専門医に聞いた。

「尿路上皮がんは残された難治性がんのひとつ」と言うのは、山口大学医学部付属病院泌尿器科の松山豪泰教授。膀胱がん患者が多い米国では、5年生存率が過去20年以上、変化がない。効果的な治療法や薬剤が登場しなかったからだ。

 今回、膀胱がんをはじめとする尿路上皮がんの治療薬として承認されたのは、免疫チェックポイント阻害薬のひとつ「バベンチオ(一般名アベルマブ)」だ。対象は、膀胱以外のほかの部分に転移があり手術で切除が不可能な進行がんで、かつ抗がん剤治療でがんが縮小した、または大きくならなかった患者だ。

 これまでの進行膀胱がんの治療は、まず抗がん剤治療。ゲムシタビン+シスプラチンか、腎機能障害がある患者ではゲムシタビン+カルボプラチンの2種類を組み合わせる方法が一般的だ。

 これらがうまくいかなければ、速やかに次の段階の2次治療に進む。問題は、抗がん剤治療が“うまくいっている”患者だ。

「抗がん剤は、初期では奏功率が高くても、長い間続けると骨髄抑制などの副作用が見られて、継続が困難になるのが課題でした」(松山教授)

 がんは、抗がん剤で小さくなっているので、2次治療に進む段階ではない。しかし、抗がん剤は中止するしかない。無理に長く続けても、副作用が全面的に出て、生存率が上昇しないことが研究で明らかになっている。だからがんがある程度大きくなるまで、主治医の判断の下、栄養補給や疼痛管理といった“様子見”のような対応を続けるしかなかった。この治療をベストサポーティブケア(BSC)という。

■臨床試験では世界初の結果

 バベンチオを含む免疫チェックポイント阻害薬は、簡単に言うと、がん細胞が免疫の働きにかけたブレーキを外し、免疫の働きを活発にしてがん細胞を攻撃できるようにする薬。今回、バベンチオは「維持療法」として用いられる。

「例えば、もともと10センチあったがんが、抗がん剤治療が効いて1センチになったとします。ここにバベンチオを用いた維持療法で、がんの縮小効果を維持するのです」(松山教授)

 つまり、バベンチオ維持療法は2次治療の前に行われるもので、抗がん剤治療(1次化学療法)とセットで1次治療という位置付けになる。

 バベンチオの臨床試験は、日本人を含む進行尿路上皮がん患者700例で実施された。

 抗がん剤治療を4~6サイクル実施し、がんの進行が見られなかった患者を2群に分け、一方には従来の治療(BSC)に加え、バベンチオの静脈内投与を2週間に1度行った。もう一方はBSCのみ。

「結果、バベンチオ+BSC群の全生存率21・4カ月で、BSC群の14・3カ月に対し、統計学的に有意な全生存率改善が見られました。バベンチオが用いられた患者さんは、この前に抗がん剤を4~6カ月やっているので、抗がん剤が効いている期間を加えると2年以上の生存期間が期待できる。全生存率は1年半くらいと考えられていたので、非常にいい成績が得られたという印象です」(慶応義塾大学病院泌尿器科・大家基嗣教授)

 進行尿路上皮がんで、全生存率の有意な延長が認められたのは、バベンチオが世界初だ。

 抗がん剤治療後の選択肢ができた意味は大きい。膀胱がんは早期発見されても再発率が高く、再発を繰り返すと抗がん剤しか手がなくなる。

 今回の薬の恩恵を受けられる人は、かなりいるだろう。

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