コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

ヘルスケア分野で活用される人工知能 当面は医師のサポート役

スマートウオッチで心電図を計測したり血中酸素濃度を測れる時代に
スマートウオッチで心電図を計測したり血中酸素濃度を測れる時代に

 医療やヘルスケア分野は、人工知能(AI)の活用領域として、大いに期待を集めている。IBM社のワトソンが、がんや難病患者の命を救ったという事例が大々的に報道されたこともあり、近い将来、医者がAIとロボットに置き換わるといった極端な意見を述べる識者もいるほどだ。

 実際には、AIによる疾病診断や治療法の選択は、期待したほど成功していない。うまくいっているのは、CTやMRIの画像診断や病理診断など、画像に関係する部分だけである。しかも現段階では、AIの診断を全面的に信用するわけにはいかない。大量の画像の中から、問題がありそうなものだけを抽出するスクリーニングに使うレベルにとどまっている。それでも放射線や病理の専門医の仕事を楽にしてくれる可能性はある。

 AIを医療のコアの部分に活用するのは難しいが、周辺分野なら十分に生かせるだろう。とくに個人健康管理は、技術的にも市場的にも可能性が大きい。

 すでにウエアラブルの健康端末が普及しており、歩数や消費カロリー、脈拍数、呼吸数などが自動的に計測され、スマートフォンで管理できるようになっている。

 昨年は心電図を計測できるスマートウオッチが、日本でも医療機器として承認された。血中酸素飽和度を測れるスマートウオッチの登場も、時間の問題だ。

 そうしたデータが揃えば、循環器や呼吸器の異常、さらには新型コロナ肺炎の発症までも、AIで判定することが可能になる。

 この場合、100%正しい診断を出す必要はない。異常を検出し、ユーザーに病院の受診を勧告するまででいい。あるいは未病の段階で、運動を促したり、サプリメントを提案したりできれば十分である。フィットネス業界やサプリメント業界とタッグを組むことにより、大きなエコシステムを構築することさえ視野に入ってくる。

 ただしAIのアプリ本体が、スマートフォンに搭載されるわけではない。AIサービスを行う民間企業の、どこかのサーバー(日本国内に置かれているとは限らない)にデータが自動的に送られ、強力な人工知能で処理される。スマホのアプリは、データの送受信を仲介し、AIの診断結果を表示するだけである。

 もちろん、ユーザーにとってはそれで十分だろう。だがAIサービスを行えるのが、GAFAなど海外のIT企業に限られる可能性が高いため、日本経済にとっては必ずしもプラスではないし、日本人の健康情報が海外の企業に吸い上げられることも問題だ。

 日本国内の通信はすべて大手キャリアーが握っているし、家庭用血圧計や体温計などの国内メーカーも揃っている。すべて国産で揃えることが可能なのだから、日本企業にはもっと大きな視野に立って、戦略的にビジネスを展開して欲しいところである。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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