発疹と猛烈なかゆみ…GWはチャドクガの毛虫に気をつけろ

皮膚炎の原因はこの毒針毛
皮膚炎の原因はこの毒針毛

 毎年ゴールデンウイークの前後から、ドクガによる皮膚炎が増えてくる。子供の頃、経験した人も少なくないはずだ。赤い発疹が何十となく現れ、猛烈なかゆみに襲われる、あれだ。長浜バイオ大学(医療情報学)の永田宏教授に聞いた。

 日本に生息するドクガ類は50種類以上といわれているが、健康被害をもたらすのは主にドクガとチャドクガの2種類。ほかにモンシロドクガも皮膚炎を起こすが、被害は少ないようだ。また他の大半の種はドクガの仲間でありながら、実は毒を持っていない。

「皮膚炎の原因は、幼虫(毛虫)の背中にびっしりと生えている毒針毛です。長さ0・1~0・2ミリ、直径0・01ミリ以下の微細なパイプ状のもので、中には、かゆみをもたらすヒスタミンと、痛みを引き起こすタンパク質成分などが詰まっています」

 ドクガの毛虫は数百万本、チャドクガの毛虫は数十万本の毒針毛を持っている。どちらも非常に抜けやすく、毛虫がいる木の枝を揺すっただけでも抜けて周囲に拡散し、皮膚に付けば、毒成分によって強いかゆみと痛みが生じる。しかも患部をかくと毒針毛が肌の奥まで押し込まれてしまい、その機械的な刺激も加わってますます痛がゆくなる。

「あるいは毒針毛が手に付着して別のところに刺さり、炎症が飛び火してしまうことさえあります」

■洗濯は2度洗い

 衣服などに付着すると、洗濯してもなかなか落ちない。

「一緒に洗った別の衣類などに付いてしまい、ますます被害が拡大してしまうこともあるので注意が必要です。2度洗いすれば、だいぶ防げるといわれています。しかし、隣家の庭にいる毛虫から飛んできた毒針毛が、干していた洗濯物に付着して、そのまま着たため皮膚炎になったといった話もありますから、自宅周辺の環境にも注意を払うべきでしょう」

 応急処置としては、「まず流水で患部を洗い流した後、ガムテープなどを押し当てて毒針毛を引き剥がし、抗ヒスタミン軟膏を塗る」と文献などに書かれている。子供の頃、セロハンテープを使って応急処置した人も多いだろう。

「かゆみや痛みは1~2週間もすれば自然に治りますが、中には過敏に反応する人もいるので、悪化するようなら皮膚科を受診しましょう」

 毒針毛は毛虫にだけ生えている。繭の中のさなぎや成虫には存在しない。しかし毛虫が繭をつくる際に、剥がれた毒針毛が繭の内側に残る。そのため、繭やさなぎ、さらには成虫までも毒針毛に汚染されており、うっかり触れば、やはり皮膚炎に悩まされることになる。

「昔から『成虫の鱗粉で皮膚炎が起こる』と言われてきましたが、本当は鱗粉ではなく、幼虫のときから引き継いだ毒針毛が原因です。とはいえ皮膚炎に違いはないので、成虫にも近づかないに越したことはありません」

 ドクガの繁殖は年1回で、毛虫は8~9月に出てくる。カキ、クリ、ナシ、ウメ、リンゴなど果樹の葉を好んで食べる。ただ、農家が見つけ次第すぐに駆除するので、現在では皮膚炎の被害は多くはないという。

■皮膚炎のピークは6月ごろ

 一方、チャドクガはその名の通り茶の葉を好むが、ほかに庭木としてよく植えられているツバキやサザンカの葉も好物。繁殖は年2回で、毛虫は5~6月と8~9月に出現する。

「そろそろ出始めるのはチャドクガの毛虫です。皮膚炎のピークは6月ごろといわれています。今年はサクラなどが例年より1週間以上も早まっていますから、被害も少し前倒しになるかもしれません」

 チャドクガは1970年代から90年代にかけて、都市化の影響などによりかなり減ったのだが、今世紀に入ってからだいぶ盛り返してきているという。都市の温暖化と緑化推進が、彼らに有利に働いていると考えられている。公園のツバキやサザンカは、彼らにとって格好の食べ物だ。

 実際、東京の都心でもチャドクガの皮膚炎が静かに増えているという。少し古いデータだが、千代田区のある病院で、チャドクガの皮膚炎で受診した人を調べたところ、1996年には年間33人もおり、それ以前の20年間で最多だった。

 最近は大都市周辺でも高齢化の影響などで空き家が増えてきた。住宅街には、庭にツバキやサザンカを植えている家も多いが、そうした家が空き家になれば、たちまちチャドクガが繁殖し始める。しかも毛虫を発見しても、勝手に入って駆除するわけにはいかない。庭木の茂る閑静な高級住宅地ほど、チャドクガの皮膚炎が増えるかもしれない。

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