進化する糖尿病治療法

プロテインがインスリン抵抗性と高血糖を改善 研究で証明

幅広い層にプロテインが受け入れられている
幅広い層にプロテインが受け入れられている

 新型コロナウイルスで生活様式が変わって1年以上経ちますが、コロナによる体重増加をなんとかしようと、自宅でスクワットや腕立て伏せなどのトレーニングを始める人が増えていると聞きます。

 それに伴ってか、プロテイン市場も拡大しているとか。今ではアスリートや筋肉を鍛えたい一部の人だけでなく、“自宅でのトレーニング”のような軽い運動をしている人、運動はしていないけれど健康や美容に活用したいと考えている人など、幅広い層にプロテインが受け入れられているそうです。

 確かにドラッグストアに行くとプロテイン関連商品がずらりと並んでいます。

 コンビニでもすでにドリンク状態になっているものが売っており、ビジネスマンが、まるで缶コーヒーを買うような感じで普通に購入し飲んでいるのを見かけたことがあります。

 プロテインとは、タンパク質のこと。牛乳やヨーグルトなどの乳製品に含まれる「ホエイプロテイン」、牛乳から脂質とホエイを取り除いた「カゼインプロテイン」、大豆が原料の「ソイプロテイン」など、さまざまなプロテインがあります。このうちのひとつ、ホエイプロテインに関して、「2型糖尿病の発症を抑制する」という新たな研究結果が昨年9月、「Scientific Reports」に掲載されました。「Scientific Reports」はエビデンスの正当性のみを評価することを目的とするオープンアクセスのオンライン学術誌です。

 発表したのは、東北大学未来科学技術共同研究センターの野々垣勝則教授ら。肝臓と小腸で発現しているホルモン様因子であるFGF21は、肥満や2型糖尿病の人では血中濃度が増加することが知られていましたが、野々垣教授らは、高脂肪食をマウスに与えると、肥満や糖尿病になる前に、早期からホルモンFGF21の血中濃度が増加することを証明しました。

■別の研究では食欲増進ホルモン分泌を抑制

 また、主に腸から分泌されるホルモン、セロトニンを遺伝子工学的に抑制させたマウスでは、肝臓からのFGF21の分泌が抑制され血中濃度が低下することも確認。さらに高脂肪食とともにホエイプロテインをマウスに投与すると、セロトニンとFGF21の分泌が抑制され、インスリン抵抗性と高血糖が改善されるとの結果でした。つまり、ホエイプロテインは高脂肪食による2型糖尿病の発症を予防することが期待できる。

 この研究の前には、米カリフォルニア大学が「2型糖尿病患者が乳製品からホエイプロテインを摂取すると、食後の血糖値の上昇を抑えられる」という研究結果を発表しています。

 食事療法または糖尿病薬メトホルミンの治療を受けている2型糖尿病患者22人を対象に、ホエイプロテイン21グラムを朝食前・夕食後に摂取する群と、摂取しない群で比較したところ、摂取することでインスリン分泌を刺激するホルモン、GLP―1の分泌が刺激され、食後の血糖値の上昇が抑制しやすくなり、食欲増進ホルモンの分泌も抑制されたのです。ただし、この研究では、ホエイプロテインが含まれるサプリメントでは、同様の結果は確認できませんでした。

 飲む量や運動量にもよりますが、現段階では「ホエイプロテインが糖尿病を予防・改善できる」とは言い切れません。今後の研究結果に期待、というところでしょうか。

 しかしいずれにしろ、主治医に相談の上でプロテインを糖尿病患者さんが摂取するのは、私は悪いことではないと思っています。タンパク質摂取で筋肉量が増えれば、インスリン抵抗性が改善され、糖尿病予防・合併予防に役立つからです。次回で詳しく触れたいと思います。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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