コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

AIが心電図からカテーテル治療の要否を判定 見落としを減らす

写真はイメージ
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 医療分野でAI(人工知能)は、どのような活用の仕方が考えられるのか。

 2019年1月、米国科学誌「プロスワン」電子版に、「胸痛で救急外来を受診した患者の心電図から、その患者にカテーテル治療が必要かどうかを判定するAIを開発した」という慶応義塾大学医学部循環器内科の研究グループによる研究成果が掲載された。

 急に胸の痛みを訴えた患者の場合、冠動脈の内側に血栓が生じ、血流が悪くなったり、血管が詰まったりする「急性冠症候群」が疑われる。中でも血流が完全に途絶える「急性心筋梗塞」は、心筋の壊死(えし)が急速に進行して死亡や心不全の原因になる。そのため早急に血流を再開させることが非常に重要になる。

 AI開発の中心人物である後藤信一助教が言う。

「急性心筋梗塞の最終的な検査には、手や足の動脈から細い管を挿入し、患部画像を映し出すカテーテル検査が用いられます。それで実際に詰まっていれば、そのまま治療ができます。しかし、カテーテル検査はリスクを伴うので、胸痛を訴える患者さん全員にやみくもに行うことはできません。現在は経験を積んだ循環器内科医が、病歴、血液検査、心電図、心エコーなどを行い総合的に診断して、カテーテル治療が必要な患者さんを見分けています。しかし、これら診断に必要な検査は時間がかかるため、血流再開が遅くなる一因になっているのです」

 そこで、診断にかかる時間(通常30~60分)を最短にすべく、研究・開発されたのが「心電図1枚のデータ」のみで、カテーテル治療を必要とする患者を瞬時に判定するAIだ。心電図だけなら数分以内に検査が終わる。

 このAIには、過去に慶応大病院の救急外来を受診した約4万人の心電図データを学習させている。

 心電図データは、臨床で医師が見るときは紙に波形で表されるが、AIには波形の画像データとしてではなく2ミリ秒ごとの電位の数値データ(時系列データ)として取り込んでいる。

 検証したところ、80%以上の精度でカテーテル治療の要否を判定できることが確認されたという。

「このようなAIは、夜間の当直など、専門医が不在のときにこそ大いに役立ちます。たとえば、胸痛を訴える患者さんが来院して循環器内科医がいない場合、心電図の検査はすると思いますが、心電図を読むには専門性が必要です。深夜に循環器内科医を呼び出すべきか迷うと、見落としが起こり得ます。そんな専門外の医師の診断の補助に活用することで、見落としを減らすことができるでしょう」

 実用化はまだ分からないが、心電図データとAIの相性がいいことが、世界で初めて検証されたわけだ。

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