上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

最先端の心臓手術であらためて痛感する「準備」の重要性

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 しかし、事前に万全の準備を整えればリスクは減らすことができます。宝物が眠っている場所にたどり着くまでに必要になる、最新鋭の設備や機材を場面に応じて揃えれば安全に宝物を入手できるようになるのです。ただ、その分だけ費用がかかります。だから、費用対効果という視点で宝探しにアプローチしなければなりません。

 これは、医療も同じです。病気を治すという宝物を安全に手に入れるためには準備が重要で、その際は費用対効果を考慮しながら新しい設備や機材を整えるということです。

 反対にいちばん愚かなのは、宝物が確実にあるとわかっている場所に何の準備もしないまま無防備な状態で突っ込んでいくことです。ただでさえ大きなリスクがあるうえに、突然のトラブルにも対処できません。宝物どころか自分の命さえ落としかねないのです。

 手術に臨む医師がいちばんやってはいけないのは、「あの部分さえ処置すればいいから簡単だ」と考えて、術前の準備をおろそかにすることです。簡単な検査結果を見た印象だけで「簡単だ」と見切ってしまう行為は致命傷になりかねません。患者さんの命を預かる医師は、術前に十分な検査をして患部の処置に至るまでに起こりうるすべてのリスクを整理し、最も安全なルートを選択して進まなければならないのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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