上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

最先端の心臓手術であらためて痛感する「準備」の重要性

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 そうした万全の準備を整えることによって、初めて「簡単な処置」が本当に簡単にできるようになります。そして、簡単なことが本当に簡単にできるようになれば、より複雑なケースでも対応できます。簡単なケースで準備するリスク管理を、より多面的に考えて実践すればいいのです。

 仮にこういうトラブルが起こったらこう対処する……想定よりも状態が悪くなっていたら違う方法にシフトする……といったように、ゴールに至る道筋をいくつも考えておく。紙芝居をしている最中に画面の1枚がなくなっていることに気づいたり、画面の順番がバラバラになってしまっても、そこから自分で脚本を書き換えて、物語をきちんと完結できるようなパターンを何本も準備しておくといった感じでしょうか。それくらいの余力がある状態で医師は手術に臨むべきです。

 事前の徹底した検査によって患者さんの全身状態を隠れた部分まで確認し、理想の完成形に至る手順や考えられるトラブルへの対処法、そのために必要な医療機器、材料、人員などを計算し、万全の準備を整えて本番に向かう。手術はまさに「備えあれば憂いなし」なのです。

4 / 5 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

関連記事