55秒未満ですべての便がするっと出ない人は腸内環境が悪い

便の形状分類に使われている「ブリストルスケール」
便の形状分類に使われている「ブリストルスケール」

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、あらためて「腸内環境」が注目されている。腸内細菌叢が免疫システムやウイルス感染に大きく関わっているからだ。とはいえ、自分の腸内環境が整っているかどうかはわかりづらい。バロメーターになるのは「便」だという。日本消化器病学会専門医で、新著「まいにち腸日記」を上梓した江田証氏(江田クリニック院長)に詳しく聞いた。

 われわれが食べたものは腸内で消化・吸収される。腸の健康状態が良好なら、便は表面がなめらかで熟したバナナのような形をした「バナナ便」と呼ばれる状態になる。便の形状分類に使われている「ブリストルスケール」ではタイプ4に当たる。

 一方、腸内環境が悪いと便はカチカチに硬くなったり(タイプ1、2)、水っぽく軟らかくなる(タイプ6、7)。

「便の状態は、一般的に腸内にとどまっている時間によって変わってきます。腸は食べた物を口側から肛門側までスムーズに移動させるために蠕動運動を繰り返しています。腸の健康状態が悪く蠕動運動が鈍くなると、食べた物が腸内を通過する時間が長くなって水分がどんどん吸収され、便は硬く黒くなります。逆に腸の蠕動運動が活発になりすぎると、腸内を短時間で通過してしまうため水分吸収が不十分になって便は軟らかく黄色っぽくなるのです」

 近年、腸の不調度を判断する目安として、「排便困難感」と「残便感」が重視されるようになった。2017年に日本で初めて発行された「慢性便秘症診療ガイドライン」では、「迅速かつ完全なる排便」を目指すことが理想とされている。それまでは排便の回数や頻度ばかりが注視されていたが、それよりも「スムーズにすべての便がするっと出るか」を気にすべきということだ。

 便の形状は、この排便困難感と残便感に大きく関わっている。

■「バナナ便」が理想的

「排便時間は、便器に座ってから排便されるまでに55秒未満が基準になります。そのためには便がタイプ4のバナナ便に近い形状が理想的です。これがタイプ1や2の便のように硬くなると、なかなか排出できず55秒より長くなります。その場合は困難感があるとされ、腸内の不調が考えられます。また、排便後にまだ腸内に便が残っている感覚がある場合は、がんなどの病気が隠れているケースもあり注意が必要ですが、便の形状が6や7のように軟らかすぎることも多い。いきんで便を排出しても、便が水様だと一部はS状結腸に逆流してしまって残便感を感じるのです」

 困難感や残便感がある人は、腸内環境が悪化していると考えられる。すぐにでも改善に取り組みたい。

「腸内環境を整えてバナナ便に近づけるには、生活習慣の見直しが大切です。高脂質・高カロリーの食事を控え、水溶性食物繊維が豊富なゴボウなどの野菜や海藻類、納豆やキムチなどの発酵食品、乳酸菌のエサとなるオリゴ糖が含まれるバナナやハチミツ、腸の働きを活性化するDHAやEPAが多い青魚を意識して取るのがおすすめです。また、軽いジョギングやウオーキングといった強度が高すぎない運動も腸内環境を改善します」

 さらに、ストレスも見逃せない。「腸脳相関」と言われるほど腸と脳は密接に関わっていて、過剰なストレスを受けると腸の状態が悪くなる。

「その日、印象に残った出来事、その時に生じた感情と考え=認知を分析し、食事や排便を記録する日記をつけるのが効果的だと証明されています。腸に影響を与える考えや、どんな食事を食べるとお腹の調子や便の状態が悪くなるのかが『見える化』され、具体的な改善策が見えてきます。するとストレスが軽減して腸の状態も整ってくるのです」

 便の形状とQOL(生活の質)の関係を調査した国内外の研究では、タイプ4のバナナ便の人は残便感や腹部の張りが少なく、もっともQOLが高かった。逆にタイプ1のコロコロ便やタイプ7の水様便に近づくほどQOLが低くなる傾向が報告されている。コロナ禍を健康に乗り切るためにも、バナナ便を目標に腸内環境を整えよう。

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