進化する糖尿病治療法

運動とセットでプロテインを取れば効率よく筋肉量を向上

プロテインは運動とセットで
プロテインは運動とセットで(C)PIXTA

 前回、牛乳やヨーグルトなどの乳製品に含まれるホエイプロテインの摂取によって、「高脂肪食による2型糖尿病の発症予防が期待できる」「食後の血糖値の上昇を抑えられる」という2つの研究結果を紹介しました。

 粉末プロテインまたはプロテインドリンクを用いた研究ではなく、それらの糖尿病への効能を示した研究結果でもないのですが、「糖尿病患者さんにプロテインの活用はありかなしか?」と問われると、私は「あり」だと答えます。プロテイン摂取によって、筋肉量増量につながる可能性があるからです。

 2型糖尿病治療の3本柱が、食事療法、運動療法、薬物療法です。食事も薬も大事ですが、運動によって筋肉が増えるメリットも大きい。

 筋肉は血中のブドウ糖を取り込んで血糖をコントロールするとともに、それらをグリコーゲンとして貯蔵する重要な働きをします。運動不足が続いたり、日頃の活動量が低下すると、筋肉はブドウ糖を取り込む本来の役割を十分に果たせず、インスリン抵抗性の原因となるのです。

 運動して筋肉量が増えれば消費エネルギーも増加します。消費エネルギーの総量は、生命維持に必要な代謝である「基礎代謝(安静時でも消費されるエネルギー)」、運動や日常生活の動作など身体活動による「エネルギー代謝」、食事をした後に代謝量が増大する「食事誘発性熱産生」の3つ。それぞれが占める割合は60%、30%、10%です。

■タンパク質の摂取量目安は体重1キロにつき1グラム

 基礎代謝は加齢とともに下がりますが、筋肉量が増えれば上がります。エネルギー代謝は運動に関わっています。基礎代謝とエネルギー代謝を足せば、消費エネルギー総量の90%を占める。要するに、消費エネルギーの総量を上げるには、運動(筋肉)が不可欠なのです。

 適度な運動をし、食事でタンパク質や糖質を適量取れば、筋肉量の向上がより期待できます。タンパク質の摂取量の目安は、最もシンプルで覚えやすいのが、体重1キロにつき1グラム。体重50キロの人ならタンパク質50グラム、60キロなら60グラムです。

 運動を定期的に行うならこの1・5倍ほどが目安になりますし、タンパク質の吸収率が低下している高齢者では体重1キロにつき1グラムよりもう少し多い量のタンパク質を取ったほうがいい。高齢者では、筋肉量不足によるフレイルやサルコペニアが健康寿命を短くする恐れがあるので、意識してタンパク質を摂取しなくてはなりません。

 ところが、食事で十分なタンパク質を取ろうとすると結構大変です。だいたい手のひら片手分の肉類でタンパク質16~20グラム、魚介類で16~20グラム、豆腐3分の1丁で6~7グラム、卵1個で約7グラム、納豆1パックで約8グラム。

 タンパク質は、一度にたくさん取っても体内に吸収できませんから、こまめに取らなくてはいけない。

 1日3食、毎回タンパク質のおかずを揃えられるかというと難しい人もいるでしょう。高齢者では、食事量が減っているので、そもそも必要量を取れない人も。タンパク質摂取に一生懸命になりすぎると、脂質もたくさん取ってしまうのも問題です。

 そういう時に市販のプロテインを利用するといい。

 運動前後に取ったり、間食で少し取ったりする。結果、1日の必要量のタンパク質量をクリアできるかもしれません。

 ただし、糖尿病・高血圧をはじめ生活習慣病がある人は主治医に相談の上で、が鉄則です。腎症がある、尿にタンパクが出ている、腎機能を示すeGFRの数値が悪い人は、タンパク質摂取量に制限があるので、必ず主治医に相談してから。

 また、プロテインさえ飲めばいい、というのではなく、運動とセットで。プロテインの飲み過ぎも禁物です。糖尿病予防・対策に、プロテインを上手に活用してください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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