がんと向き合い生きていく

初孫ができて思い出す乳がんで亡くなった女性患者の言葉

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 息子夫婦から送られてくる孫の動画を見ていると、「もしかしたら、この子が大きくなった時に読んでくれるかもしれない」「爺はこんなことを考えていた。こんな本を読んでいた。こんなことを書いていた……そんな興味を持ってくれるのでは」などと考え、「この別刷りは、この本は残しておこうか」という思考が頭をよぎるのです。

 そんな爺になった私が思い出すのは、乳がんで亡くなったFさん(65歳)という女性患者のことです。入院していた病室の枕元には3歳くらいのお嬢さんの写真が飾ってあり、こんなお話をされていました。

「私のがんは全身に進んでしまったし、死ぬのが怖いとか、生きていたいとか、そんなふうには思いません。ただ、この孫と別れるのがつらい。こんなかわいい孫とは別れたくない。小さな子は3歳までに恩を返してくれると聞いたことがありますが、それは本当だと思います。孫が世界で一番かわいいのです。こんなにかわいいと思うのは、やはり血がつながっているからでしょうか?」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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