がんと向き合い生きていく

初孫ができて思い出す乳がんで亡くなった女性患者の言葉

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■生命は受け継がれていくことに救いがある

 宗教学に造詣の深い哲学者の梅原猛さんは、日本緩和医療学会特別講演で次のような話をされました。

「私たちの生命の中には永遠の生命がやどり、それが子孫に蘇っていく。自分は死んでも、遺伝子は生きていると考えれば、生命は連続的なものと科学的に考えることができる。この考えに立つと、がんの末期の人、死にゆく人々に対峙する時、慰めの心を持って対話ができるのではないか。この世の生命は受け継がれていくことに救いがある。生命は連続したものだという立場から自然な対話ができる」

 梅原さんの「この世の生命は受け継がれていくことに救いがある」という言葉が、今になって身にしみるのです。

 34年前、私が担当していて胃がんで亡くなったSさんの奥さまから、先日メールが届きました。その当時、奥さまは大変苦労されたと思うのですが、幸せそうに「今、孫たちは大学生4人、高校生3人、そして一番チビさんもこの4月から中学生です」と報告してくださいました。一緒に送っていただいたご家族の集合写真を目にして、「こんな幸せな方もおられるのだ」と思いました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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