巣ごもりGWだからこそ知る「ピルの効能」

避妊に限らずイライラやニキビ解消に役立つ「女性の応援薬」

佐野靖子医師
佐野靖子医師(提供写真)

 3度目の緊急事態宣言発出で外に遊びにも行けず、ゴールデンウィーク(GW)を自宅でイライラしながら過ごしているカップルも多いのではないか。いくら仲が良くても長時間同じ部屋にいればスラストレーションが溜まる。女性が生理前やその最中ならなおさらだ。ささいなことでケンカになり、別れ話に発展してしまうことだってあるかもしれない。

 そんな悲劇を避けるために「ピル」を利用してはどうだろう。ピルは望まない妊娠を避けるための避妊薬という役割だけでなく、女性の生理周期に伴う気分不快やイライラを解消する薬として使われている。新型コロナが続くいまだからこそ、女性ならずとも知っておきたい、「ピル」について「ミラザ新宿つるかめクリニック」(東京・新宿)婦人科の佐野靖子医師に解説してもらった。

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 みなさんはピルと聞いてどんなイメージをお持ちですか?「避妊薬」「太る」「副作用が強い」そんなイメージを持つ人もいらっしゃると思います。

 ピルは避妊を目的にして60年ほど前にアメリカで誕生しました。日本で承認されたのはそれから40年近くたった1999年、ミレニアムに湧いていた時代のことです。元々は避妊薬として開発されたピルですが、使用されていく中で生理痛を改善し、生理の量を減らす効果があることがわかりました。

 そこで2008年には生理痛の改善を目的としたピルが日本でも承認されました。発売から10年経過した2018年には、保険診療薬のピルの売り上げシート数は避妊目的の自費ピルと同じぐらいの数になっています。これは現在ピルを飲んでいる日本人女性の半分近くかそれ以上が婦人科の治療のためにピルを飲んでいる、ととらえることもできます。

■産婦人科医の私がピルを飲み続ける理由

 ピルは生理痛以外にも生理前のイライラやニキビの治療にも使用されます。かくいう私も、ピルユーザーの一人です。2年前に生理前のイライラをきっかけに飲み始めました。

 以前の私は生理前になると普段は何とも思わないことにイライラしたり、悲しくなったりしていました。

 私と同じように生理前にイライラを感じる女性は多いですし、いきなり女性に怒られたりして「どうして?」と思う男性もいるでしょう。 

「どうして?」と言われて症状が起こる仕組みは説明できたとしても、症状は不意に湧き上がってくるマグマのようなもの。コントロールすることは難しいのです。

 生理前のイライラ、胸の張り、むくみなどの月経前症候群(PMS)は、排卵後に卵巣から分泌されるホルモンが変動することで起こるのではないかと考えられています。

 ピルには排卵をおさえる効果があり、排卵後の辛い症状を和らげてくれます。この症状には漢方治療も有効で、私もピルを飲む前は漢方を使用していました。ただPMSとは直接関係のないものの年々生理の量も多くなってきました。ピルには生理の量を減らす効果があり、「もうピルしかない」と思い、始めることにしました。

■妊娠・出産が減った現代女性は生理が原因の病気になりやすい

 結果は正解でした。体が慣れるまで少しかかりましたが、生理の前に感じていたイライラや悲しさはなくなり、生理の量も減りました。生理が来るタイミングもわかるので、予定も立てやすくなりました。何より今まで自分がコントロールできなかった「生理とそれに付随するトラブル」を調節できるようになり、女性であることを前向きに受け入れられるようにもなりました。

 婦人科医の私にとってピルは治療に使う大切な治療薬であり、女性のトラブルを解消して、働きやすく、生きやすくしてくれる「女性応援薬」でもあると思っています。妊娠・出産の回数が少なくなった現代では生理が原因の病気になる女性が増えています。そのために低用量ピルを治療に使用する女性も増えています。

 女性の社会進出が進んでいる今は女性と一緒に働いたり、女性が多い組織を束ねたりする男性も少なくありません。女性の体やピルについて理解することはこれからの時代を生き抜く男性にとっても必要な知識になるかもしれません。

佐野靖子

佐野靖子

ミラザ新宿つるかめクリニック婦人科医師。順天堂大医学部卒。同大産婦人科入局後、非常勤助教を経て現職。医学博士、日本産婦人科学会専門医、日本女性医学学会専門医。専門は更年期障害、女性のヘルスケア。

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