国内で流行する変異株には英国型の「N501Y」のほか、「N501Y」と「E484K」の2種類の変異を持つブラジル型や南アフリカ型がある。さらに急速拡大が懸念されるのがインドで猛威を振るう二重変異株だ。1つのウイルス内で2つの変異が重なる新型コロナウイルスで、日本でも21件(4月29日時点)を確認。なぜ次々に変異株が出現するのか。
【Q】なぜウイルスは変異を起こすのか
【A】ウイルスは遺伝物質として「RNA(リボ核酸)」または「DNA(デオキシリボ核酸)」を持っていて、RNAウイルスとDNAウイルスの2種類に分けられる。新型コロナウイルスはRNAウイルスのひとつだ。
「まず、DNAウイルスは生物の細胞と同様に、遺伝子が二重らせん構造をした2本鎖になっています。それに対し、RNAウイルスの構造は1本鎖で、複製する役割を果たす対の鎖を持っていません。RNA同士を複製し、自らを増やし続けています。その過程で塩基配列(核酸を構成するDNAの構成要素の配列)のコピーミスが起これば、変異したRNAウイルスが出現してしまいます。DNAウイルスの場合は、1つの部位に変異を起こすと自らが修復しようと酵素が働き、新たな核酸ができますが、RNAウイルスにはそのような働きがないため、変異がそのまま増殖されて多くの変異ウイルスが出現するのです。不安定な構造を持つウイルスですが、起源をたどると約35億年前から出現していたことが分かっています」
たとえば、「N501Y」はコロナウイルススパイク(Sタンパク質)の501番目のアミノ酸が「アスパラギン(N)」から「チロシン(Y)」に変わり、「E484K」は484番目の「グルタミン酸(E)」が「リジン(K)」に変わっている。
こうして1本鎖のRNAウイルスは遺伝的に不安定性を持つが、常に変化し続けていくことで、宿主となる動物の免疫系をかいくぐったり、ワクチンに対する耐性を持ったりする。
【Q】新型コロナウイルスがとりわけ変異が多いのか
【A】「前述の通り、RNAウイルスの場合、DNAウイルスに比べて変異を修復する酵素が存在しないため、新たに核酸をつくれず、変異を修復できません。そのため、いったん変異が生じると、そのまま変異したウイルスが生じます。その変異も多数起こり、スピードも非常に速いのが特徴です。ただし、これはインフルエンザも同じで、さらにHIVウイルスはもっと変異率が高い。新型コロナウイルスの変異率は同じRNAウイルスのHIVの5分の1、インフルエンザの2分の1と計算されています」
【Q】変異に対応するにはどうすればいいのか
【A】「一般的にウイルスに感染した細胞を生体内から見つけ出して壊す『キラーT細胞』を誘導することが有効と考えられます。それにより、感染を防御する免疫を持つ『細胞性免疫』を発現させ、コロナウイルスの変異にも対応できると考えられています。また、集団免疫を持てば変異もウイルス発現も少なくなり、消滅していくものと思われます」
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