「下流クラスター」を収束させるにはやはり検査の拡充が必要

成田空港で帰国・入国者のPCR検査を行う検疫担当者
成田空港で帰国・入国者のPCR検査を行う検疫担当者(C)共同通信社

 連日のように各地で過去最多の感染者数が更新され、新型コロナウイルスの第4波はいまだ出口が見えてこない。一般のワクチン接種が始まるのは早くても7月以降とみられ、多くの人はこれからも“素手”でウイルスと対峙する期間が続く。どう乗り切ればいいのか。東邦大名誉教授の東丸貴信氏に聞いた。

 感染拡大にブレーキがかからないことから、東京、大阪、兵庫、京都で4月末に発令された3度目の緊急事態宣言が延長され、さらに愛知と福岡も追加された。飲食店や商業施設の時短営業、公共施設の休館・休園も継続され、経済的な打撃を受ける人や不自由な生活を強いられる人がますます増えるのは間違いない。

 しかし、現状のまま商業施設や飲食店の休業や時短営業を実施しても、感染を収束させる効果は十分ではないという。

「第4波は、卒業式や入学式、人事異動による歓送迎会など全国的に数多く行われた年度末行事に伴う会食や会合に、英国型変異株の上陸が重なって生じたと考えられます。年末や年度末に首相や官公庁の職員といった責任のある立場の人々もルール違反の会食を行っていたことが発覚したように、すべての階層で“上流クラスター”が無数につくられ、これが家庭、職場、医療機関、高齢者施設などの“下流”に感染を広げたとみられます。こうした流れを緩やかにして収束させるには、これまで感染防護ガイドラインを厳密に守っていなかった飲食店や商業娯楽施設に対し、行政や管理組織が直接的な感染防護の指導を行うこと、人々に密閉・密集・密接の3密はもとより1密でも感染リスクがあることをより周知させるべきです」

 飲食店、商業施設、スポーツ文化施設などは、しっかり感染防護されていれば、最近のクラスター発生データが示すように、その場での感染リスクは低いという。

「新型コロナウイルスの感染力が強いのはたしかですが、個室や隔離された席での外食では感染しません。マスクをしていれば、屋外の散歩や街中での買い物も安全です。混雑した電車でも、換気の良い状態で対面1メートル、横隣50センチの間隔を確保した上で、マスクをして会話をしなければ、感染リスクはほとんどありません。こうした予防策が周知徹底され、会合会食が自粛されれば、商業施設や飲食店の休業、時短営業は緩和できます」

■有症者や濃厚接触者だけの検査では不十分

 同時に重要なのが、やはりPCRなどの検査の拡充だという。

 クラスターが発生した医療機関や高齢者施設では、最初の感染者が発覚した時点で、速やかにすべての患者と職員のPCR検査を行い、無症状の人を含む感染者を早期隔離して治療にあたる。そのうえで、施設内のゾーニングを徹底して感染収束させるのが理想的だ。第1波の頃から指摘されているように、まずはPCR検査が収束のスタートなのだ。

 現在、日本のPCR検査数は増えてきたとはいえ、これまでの総数は約1200万件。人口が1億2000万人だから人口あたりの割合は1割にとどまっている。人口8300万人のドイツでは5700万件、人口6600万人のイギリスは1億2600万件、人口3億3000万人の米国は4億2600万件の検査が行われていることを考えると、まだまだ少ないのが現状だ。

「クラスターが発生した医療機関や高齢者施設を見ると、有症の感染者が出た場合、感染症学会の指針にもあるように、その周辺をかなり広範囲に検査しなければさらなる拡散は防げません。これまでのような有症者や濃厚接触者だけの検査では、クラスターの把握すらできません。今後さらなる下流クラスターが生じるとみられる医療機関、高齢者施設、職場、学校などで変異株の評価もできるPCR検査の拡充を進めていかなければ、早めの収束は困難です」

 第4波を乗り切るためには、ワクチンに淡い期待を寄せる前に、あらためて「密を避ける」「PCR検査拡充による隔離」という感染症予防の基本に立ち返る必要がある。

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