コロナ重症化で精子に異常が…ICU入院男性は精子生存率が0%に

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスは精子にも影響を与えるかもしれない。男性不妊症や性機能障害などの治療に力を入れる帝京大学医学部泌尿器科の木村将貴医師に聞いた。

 2020年5月、国際的に権威ある医学雑誌「JAMA」に「コロナ感染者の精液の中からコロナウイルスが検出された」という中国の研究結果が発表された。

 その研究では、PCR検査で陽性となったコロナ感染者50人の患者の精液を検査。50人のうち12人は勃起障害、意識障害、死亡したために射精できず、最終的には38人の精液検査となった。

 38人中23人(60・5%)が臨床的に回復し、15人(39・5%)は感染の急性期にあり、精液検査の結果、精液からコロナウイルスが検出されたのは急性期患者の4人(26・7%)、回復期の人では2人(8・7%)だった。

 精液にコロナウイルスがいるということは、精液を介して性行為のパートナーに感染させる可能性があるのか?

「結論から言うと、現在はその可能性は否定されています。中国のJAMAでの研究発表後、コロナから回復した男性の精液のコロナウイルスを調べた論文が複数出ていますが、ウイルスが見つかったという報告は1件で、それも遺体から見つかったというものです」

 むしろ専門家が注目しているのは、精子の質に与える影響だ。

 前回の「イタリアの研究」は、フィレンツェ大学などの研究チームが、コロナに感染した33~59歳の男性43人を対象に行ったもの。ウイルスが検出されなくなってから23~49日後の精液を調べたところ、4人に1人にあたる11人(26%)に精子の異常が見られた。そのうち8人は無精子症、3人は乏精子症だった。

「精子の異常はコロナの重症度と関係がありました。集中治療室(ICU)まで行ってしまった重症例ではほぼ無精子症になっていました」

■濃度も低く、運動能力が劣化

 外来、入院、ICUに分類して精液所見を見ると、精液検査による総精子数は、外来は1億3325万個(中央値=以下同)、入院は3810万個に対し、ICUは0個。精子の生きている割合は、外来59%、入院49%だったが、ICUになると0%だった。

 ドイツの研究でも、コロナに感染して回復した84人と、同年代の健康な105人の精液を60日間、10日間隔で調査。感染者は健康な人に比べて精子に悪影響を与える炎症や酸化ストレスを示す数値が有意に高かった。

 また、イランの研究では、コロナに感染した男性は健康な男性に比べて精子の数が少なく、濃度が低く、精子の運動能力が劣っており、形状異常の精子が多かったことも報告されている。

「コロナウイルスは細胞のACE2というタンパク質に結合して感染します。ACE2は精子が作られる精細管の細胞に分布しているので、精巣もコロナの標的となり、感染することで精巣組織に損傷を起こすことは想像できます」

 精子の異常が見られる原因として、一つは発熱の影響が挙げられる。

「コロナに限らずおたふく風邪やインフルエンザなど発熱を伴う感染症にかかると、精子が減少することはよくあります」

 イタリアの研究では、コロナ重症例ほど精液中の炎症時に分泌される物質サイトカインが多かった。それが精巣機能へダメージを与え、精子の数などに影響を及ぼしている可能性もある。

「ただし、精子は3カ月くらいで生まれ変わるので、回復後しばらくすると精子の数が元通りになるかもしれない。今後さらなる研究が必要。現段階では、コロナに感染しないように気をつけることが一番です」

 感染拡大が落ち着くまで、気を抜けないのは確かだ。

▽木村将貴(きむら・まさき)
男性不妊症、性機能障害、男性更年期、マイクロサージャリーが専門。

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