進化する糖尿病治療法

腎機能が急激に低下している人ほど認知症になりやすい

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 スウェーデンにある世界トップクラスの医科大学「カロリンスカ研究所」の研究者らによって、慢性腎臓病が認知症リスクを上昇させることが発表されました。

 これは、2006~11年に腎機能を調べるクレアチニン検査を医療機関で受けた約33万人への調査によるもの。人工透析や腎移植をしたことがなく、認知症でない65歳以上を対象に腎臓の働きを調べる推算糸球体濾過量(eGFR)と認知症リスクの関係について検討しました。

 すると、5年間で検出された認知症患者は5・8%(中央値)。腎機能と認知症発生率の関係では、eGFRが低い、つまり腎機能が低下している人は認知症発生率が高く、さまざまな条件を調整した解析結果では、eGFR30ミリリットル/分未満の「高度の腎機能低下」の群は、eGFR90~104ミリリットル/分の「腎機能正常」に対し認知症リスクが1・6倍も高いことが分かりました。

 また、初年度にeGFRを2回以上測定した20万5622人を対象にeGFR低下率を推定し、その後の認知症リスクとの関係も検討。すると、腎機能が急激に低下している人ほど認知症リスクが高いという結果が出ました。

 さらに、他の病気と認知症リスクの関係を「人口寄与危険割合」で解析した結果、認知症の10%が慢性腎臓病に起因していることが分かりました。慢性腎臓病が認知症リスクに最も関係しており、次いで、うつ病(7%)、脳卒中(4%)、糖尿病(2%)でした。なお、人口寄与危険割合は疫学の指標のひとつで、その危険因子によって罹患率がどれくらい高くなるか、危険因子をなくすことで罹患リスクがどれだけ減少するかを示すものになります。

■腎機能は検査をしなければ異常があるかどうかが分からない

 この研究結果の新しい点は、今までも想定はされていましたが、腎機能と認知機能に直接フォーカスを当てて関連性を報告したところだと思います。

「心腎連関症候群」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これは、心臓と腎臓のいずれか一方にトラブルが起こると、もう一方にも影響してトラブルが起こることを指しています。

 つまり、心臓の働きが落ちると、その影響で腎臓の働きが落ちる。逆に腎臓の機能が落ちると、心臓の働きが落ちる。加齢によって健康な人でも腎機能が落ちてきます。糖尿病や高血圧などの疾患がある人は、腎機能がより落ちやすくなりますから、すると心臓の働きも落ち、血流が脳に十分に行かなくなり、脳の機能も落ちる。認知症を発症しやすくなる、というわけです。

 今回の研究結果は、認知症予防のためにも、人工透析回避のためにも、腎機能チェックを、より積極的に行った方がいいことを強く示していると思います。

 ただ、腎機能を下げることが明確に分かっている糖尿病治療の現場でさえ、腎機能チェックを頻回に行っていない医療機関が多い。

 糖尿病治療では、専門医の数に対し、患者さんの数が非常に多い。また、血糖コントロールや食事などのチェックに意識がいってしまい、それ以外のことになかなか時間を割くことができないという事情があります。

 自分の身を守るのは、自分です。もし、腎機能を何年もチェックしていないという人は、検査を受けるべきです。糖尿病であれば、なおさらです。

 腎機能は、人工透析直前までいってようやく自覚症状が出てくる病気です。検査でなければ異常があるかないかは分からないのです。

 血液検査で、筋肉に含まれているタンパク質の老廃物、クレアチニンの値が分かります。男性1・1、女性0・7以下が正常値で、腎機能が悪くなると血清クレアチニン値が高くなります。血清クレアチニン値が分かれば、年齢、性別から簡単にeGFRを算出できます。採血のデータにも記載されていることが多いです。自分の腎臓が現在どのような状況なのか、把握しておく必要があります。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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