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脳<下>「ブレーンフード」コリンに注目 記憶や筋肉に関係

大豆に含まれる「大豆レシチン」が肝臓でコリンに合成される
大豆に含まれる「大豆レシチン」が肝臓でコリンに合成される

 脳の働きを活性化させる食べ物を「ブレーンフード」と呼び、研究の成果で脳にいい栄養素がだんだん分かってきている。それ以前に「食べる」という行為、それ自体が「脳にいいこと」なのだ。

 大脳研究の第一人者で京都大学名誉教授の久保田競氏(医学博士)が言う。

「食べ物を見たり、匂いを嗅いだり、グツグツ・ジュージューといった音を聞いたりすると、その情報が『大脳皮質』から『前頭前野』に伝わり、手を使って『食べる』という行動に移ります。この時すでに、脳の中ではさまざまな領域が働いています。さらに食事をすると、脳は視覚・味覚・嗅覚・聴覚・触覚・迷路機能(直線加速と回転加速)の六感から、情報を受け取ります。そして、何を食べて、どう感じたか、好きか嫌いかなどを学習し、記憶しています。しかも、知らず知らずのうちに、考えているいろいろなことが脳を活性化することにもなっているのです」

 このようなことから「脳にいい食事の仕方」は、第一に、しっかりと味わっていろいろなことを考えながら食べること。そして1人で食べるより誰かと会話しながら食べる方が、脳をより活発に働かせることができるという。

 では、ブレーンフードとは、どのような食べ物になるのか。特に注目されるのは「コリン」という栄養素だ。コリンは、たとえば大豆に含まれている「大豆レシチン」の名称で親しまれているもので、これを摂取すると肝臓でコリンに合成される。それが脳に送られて神経伝達物質の「アセチルコリン」が合成される。つまり、コリンを食べなければアセチルコリンはできないのだ。

「アセチルコリンが大切なのは、3つの重要な役割があるからです。脳の中の『大脳基底核』という神経細胞集団の働きを良くして、『記憶を助ける役割』があります。もうひとつは『筋肉を動かす役割』。3つ目は『副交感神経を働かせる役割』です。記憶を助ける役割では、アセチルコリンが不足すると、一時記憶に関わるワーキングメモリーがうまく機能しません」

 すでに30年ほど前に、アルツハイマー病の患者の脳でアセチルコリンの減少が発見されている。それによって開発されたのが「アリセプト(一般名・ドネペジル)」という薬だ。この薬は、アセチルコリンを分解する酵素を阻害することで効果を発揮する。ただし、アルツハイマー病の初期の進行を遅らせるだけで、症状を改善させる効果は認められていない。

 大豆以外にもコリンが豊富に含まれている食品は、「生卵」「鳥レバー」「牛肉の煮込み」「豚肉」「薫製ベーコン」「エビ」「インスタントコーヒー」など。ピスタチオやカシューナッツなどの「ナッツ類」、ゆでたブロッコリーや冷凍ホウレンソウなどの「野菜」にも比較的多く含まれているという。

■DHAやビタミンB群も重要

 青魚に多く含まれる「DHA(ドコサヘキサエン酸)」や「EPA(エイコサペンタエン酸)」も脳にいい栄養素として知られる。これに、アマニ油やエゴマ油に多く含まれる「α―リノレン酸」を加えて「n―3系多価不飽和脂肪酸」と呼ぶ。

 この不飽和脂肪酸は、ネズミを使った実験や小学生を対象とした研究などで学習能力が向上することが報告されている。これらの数々の研究から、脳の神経回路の構造をつくっている成分であること、脳が働いて情報伝達をする時に使われていることなどが分かってきている。

「日本人は、DHAをサンマやイワシ、サバ、アジ、サケなどの青魚からよく取っていますが、それだけでは十分ではないと考えています。不飽和脂肪酸は、貝類や海藻、クルミなどをはじめとするナッツ類、キウイなどにも豊富に含まれています。いろいろな食品から摂取したり、サプリメントで補ったりすることをお勧めします」

 ビタミンB群も脳には重要で、中でもビタミン「B6」「B9(葉酸)」「B12」は、脳の萎縮程度を軽くする可能性があることが分かってきている。また、ビタミンB群は血管を損傷させたり、神経細胞を壊したりする「ホモシステイン」という物質の値が高まることを抑制する効果があることが認められている。

 食品としては、カツオやマグロなどの「魚類」、牛・豚・鶏の「レバー」、ホウレンソウや春菊・枝豆・アスパラガスなどの「野菜」、シジミやアサリなどの「貝類」に多く含まれている。

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