新型コロナワクチンの疑問に答える

オリンピックが感染症の流行をつくり出すのはなぜですか?

密集は避けられない(リオ五輪の開会式)/
密集は避けられない(リオ五輪の開会式)/(C)日刊ゲンダイ

 東京五輪に参加予定のアスリートに対するワクチン接種が6月1日から始まった。すでに、オーストラリアのソフトボール選手団が合宿地の群馬県太田市に入ったが、県内ではインド変異株が7件確認され、拡大も懸念されている。本番になれば選手だけでなくメディア、コーチなどおよそ10万人が来日するという。今回は、改めて五輪と感染症拡大について学ぼう。

 奥田先生は2019年発売の著書「この『感染症』が人類を滅ぼす」で、「2020年東京オリンピックが危ない」という見出しの警告を出している。

【Q】五輪が感染症流行をつくり出すのはなぜですか?

【A】「新型コロナウイルスが流行していなかったとしても、開催時期が気温や湿度の高い夏場であることから、ウイルスなどの繁殖、伝播に適しています。加えて、海外からの人の往来で新型の外来微生物などが入り込みます。サル由来HIVや、動物由来の感染症が飛行機などの密集した環境で世界に流行。感染力の強いウイルスなどの感染症は人流が増えることにより伝来します。くしゃみや咳による飛沫感染や接触感染で拡大するコウモリ由来MERSコロナウイルスも、観光客などの渡航者の往来で拡大しました。ウイルスにとって人流は“好機”です」

【Q】16年のリオ五輪の後はどうだったのですか?

【A】「ブラジルでは15年11月にジカウイルスが流行し、小頭症児が多く生まれることが明らかになって、同国政府は国家緊急事態宣言を発令しています。16年2月には150万人が感染。WHOも国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と宣言し、実際にミクロネシアや中南米を中心に20カ国には拡大していましたが、16年の夏には通常通り開催されました。蚊で媒介されるジカウイルス感染症は、男性は精液、女性は膣内にウイルスが残存し、男性では1カ月以上、研究によっては半年以上精液中に残存するとも報告されています」

 その後、日本でも帰国者の患者で数例、ジカウイルス感染症が報告された。

【Q】それでは、今回の五輪は開催可能か?

【A】「医学的な観点から考えれば、答えはノーです。東京を主とする現在の感染者数が1日100人以下にならないと、インド株・ベトナム株などが次々と伝播し、再感染が急増して、全国的に大きな負担を強いることになります。米国の雑誌『NEJM』でも、公衆衛生学者らが警告しています。東京における五輪の3密対策および現在の予防接種状態などでの現状は極めて不十分で危険だと指摘、特に柔道、ボクシング、レスリング、ラグビーなど選手同士が激突するようなスポーツは一方が陽性だと他人にうつす可能性が高いと強調しています」

【Q】7月23日までにどんな状況になれば開催が可能になるのか?

【A】「ジョンズ・ホプキンス大学では開催国の70%以上の人がワクチンを打ってから始めるべきだと提言しています。ところが現実には、国内でワクチンを2回接種したのは全体の5%以下。このペースでは開催時にワクチン2回終了の日本人は5分の1にも満たないでしょう。医者として五輪は中止すべきであると思います。特に検査やワクチンのしっかりしていない開発途上国の選手は、しっかりワクチンを接種したり検査したりしてから参加できるのか疑問。それに、スタッフも含めて、海外の人たち全員が非常に隔離された状態で半月ほど日本国内で生活をしてもらう覚悟がない限りは大変心配です。日本の逼迫する医療体制と非効率的な検査、追跡、隔離などを考えると、五輪後に新型コロナウイルス感染が再拡大する可能性が高い。東京、大阪などの医療体制が破綻しているところで治療に当たっている我々医師は憔悴しています」

奥田研爾

奥田研爾

1971年横浜市立大学医学部を卒業後、米国ワシントン大学遺伝学教室、ハーバード大学医学部助教授、デューク大客員教授、スイスのバーゼル免疫研究所客員研究員として勤務。2001年横浜市立大学副学長、10年から名誉教授。12年にはワクチン研究所を併設した奥田内科院長。元日本エイズ学会理事など。著書に「この『感染症』が人類を滅ぼす」(幻冬舎)、「感染症専門医が教える新型コロナウイルス終息へのシナリオ」(主婦の友社)、「ワクチン接種の不安が消える コロナワクチン114の疑問にすべて答えます」(発行:日刊現代/発売:講談社)のほか、新刊「コロナ禍は序章に過ぎない!新パンデミックは必ず人類を襲う」(発行:日刊現代/発売:講談社)が8月に発売される。

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