Dr.中川 がんサバイバーの知恵

5年では不足、「10年生存率」が必要なタイプのがんもある

主ながんの10年生存率
主ながんの10年生存率(C)日刊ゲンダイ

 がんの治療成績を示す指標に5年生存率があります。国立がん研究センターは、その2倍の期間の10年生存率を公表。話題を呼んでいます。2008年に全国のがん診療拠点病院などで診断された約24万人のデータを利用したもので、10年後も命を落とさなかった人の割合が分かります。その算出は初めて。既存の10年生存率と比べると、最も大規模です。

 胃や大腸、肺など15種類のがんを調べ、全体で59・4%。4割ががんで亡くなる計算です。

 一般にがんは、治療のスタートから5年間は経過観察しながら、再発や転移をチェック。5年間、問題がなければ、一つの区切りで、“治った”と考えます。

 しかし、“治った”ように見えたがんが、何年も経って再発することは珍しくありません。そういうタイプは、5年後も経過観察を続ける必要があります。そのタイプを知る手だてが、10年生存率です。

 たとえば、胃がんと大腸がんは、10年生存率がそれぞれ66・0%、67・2%。5年生存率は、72・3%、72・4%です。10年は、5年より低下していますが、その差はわずか。このタイプなら、便宜上、5年生存率≒治癒率とすることができ、経過観察は5年で一区切りです。

 一方、肝臓がんは、5年生存率が44・7%で、10年生存率は21・8%。10年は5年の半分以下と落ち込みが大きい。発症からの年月が延びるにつれて再発が増え、生存率が下がるタイプです。このようながんは、5年を超えて経過観察を続けることが大切でしょう。男性の前立腺がんや女性の乳がんも、このタイプです。

 オーストラリアの歌手オリビア・ニュートン・ジョン(72=写真はロイター共同)は2017年、治療から25年を経た乳がんが再発し、予定されたツアーを延期。放射線治療を受けることが話題になりました。私の患者さんでは、34年後に乳がんが再発した方がいます。

 ですから、5年の意味は、がんの種類によっても、患者さんの年齢や立場によっても、異なるのです。今回の10年生存率のデータは特定のがんの早期以外、5年を過ぎても経過観察を続ける必要性を示しているといえるでしょう。実際、私は患者さんを20年くらいフォローして診察しています。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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