男性不妊症のすべて

精子力の「低下」「老化」の原因と防ぐポイント

ストレスを軽減させることも大事(写真はイメージ)
ストレスを軽減させることも大事(写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 精子力とは、「精子の次世代をつくっていく能力」のことを指す造語です。妊娠するためには、精子力が高いことに越したことはないと思います。しかし、加齢と共に体力が落ちてくるように、精子力も落ちてきます。ここでは、精子力が落ちる原因と精子力をなるべく落とさないためのポイントを説明します。

 まず、男性らしさを決定するホルモンである「テストステロン」について説明します。テストステロンは、非常に重要なホルモンで多様な作用をもっています。具体的に説明すると、血管機能、糖代謝、脂質代謝、筋力、認知機能、勃起機能、精子機能、排尿機能といったさまざまな部位に作用します。しかし、テストステロンは35歳をピークに低下傾向を示すと報告されています。

■肥満の裏には男性ホルモンの低下が隠れている

 テストステロンが低下し始めてまず皆さんが気づく変化が肥満です。たとえば、20歳代の時は、いくら食べても太らなかったのに、35歳を過ぎてくると太ってきたという経験はありませんか? これは、テストステロンが関係しています。テストステロンが低下すると、糖代謝や脂質代謝が低下しメタボリックシンドロームを引き起こします。メタボリックシンドロームとは内臓脂肪が過剰に蓄積されていることに加え、血圧上昇、空腹時の高血糖、脂質の異常値などがみられる状態のことを指します。

 精子力にはこの肥満が大敵で、精子力を低下させます。肥満は、身体に「酸化ストレス」という身体の錆が溜まりやすくなります。これが精子に影響して精子力を低下させるのです。

 では、精子力を上げるためにはどんな工夫が必要でしょうか? 僕が患者さんにいつも説明していることをお話しします。それは、薬やサプリメントに頼るのではなく、まずは運動をすることです。

 Aさんは37歳のシステムエンジニアです。精液所見が不良で受診されました。お話を聞くと、コロナ禍の影響でこれまでの出勤から在宅での仕事となり、まったく運動をしていないようです。体重も20歳代の時に比べて10kg以上も増加しました。

 精子力と肥満のお話しをして、まずは、散歩などの運動から始め、週2回以上は有酸素運動をするようにして、減量をすすめました。運動をすることによって、肥満の改善だけでなくテストステロンも上昇することが関係しています。さらに、運動は酸化ストレスの軽減に関係し、アンチエイジングに働きます。運動は老化の低下につながるというわけです。

 僕も、患者さんに説明する側として、肥満では話に説得力がないので、体重コントロールをしっかりやっています。BMIという体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数で、18・5~25未満が普通体重に該当します。僕は、46歳ですがBMIは約22を保っています。

 精子力は、肥満だけが関係しているわけではありません。他には、喫煙、薄毛の治療薬、ストレス、不眠、長時間の入浴なども関係します。

■過剰なストレスが精子の元気を奪う

 肥満の次に多いのがストレスです。Bさんは35歳の高校教師です。時期によりますが、進路指導が忙しく、その間は睡眠時間がほとんどとれないこともあるようです。忙しい時期での精液所見は確かに不良でした。妊娠を希望する間は、睡眠を十分に取るようにして、仕事のストレスも軽減するようにお話ししました。

 ストレスが過剰にかかるとテストステロンが低下する原因となります。たまたま、Bさんは転勤で違う高校に赴任となり、そこは以前の高校に比べて落ち着ているとのことで、驚くことに精液所見も改善傾向を示しました。

 精子力が低下する因子はさまざまなものがありますが、どれも生活習慣を見直すことで改善が期待できます。精子力は健康のバロメーターともいえます。該当する項目があれば、まずは、改善を試みてください。

小林秀行

小林秀行

1975年、東京都生まれ。2000年東邦大学医学部を卒業。卒後研修終了後に東北大学大学院医学系研究科病理病態学講座免疫学分野に進学。医学博士を取得。ペンシルバニア大学獣医学部にてリサーチアソシエイト。その後、東邦大学医学部泌尿器科学講座に復帰。2014年より現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医。専門は男性不妊症。noteにてブログ「Blue-男性不妊症について」を配信中。

関連記事