がんと向き合い生きていく

がんではないかと不安になる壊死性リンパ節炎は原因が分かっていない

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 ある日の夕方、会社員のKさん(28歳・女性)はなんとなくだるくて少し寒けがあり、熱を測ってみたら36・8度でした。いつもはもう少し低いのに……と気になりました。ふと、右の首を触ってみたらリンパ節のような塊が触れ、コロコロしていて触ると痛みがあります。

 触れるのは2、3個で、なんとなく喉の痛みもありますが、口の中を鏡で見ても赤くなってはいません。ひとりアパートで「どうしたことだろう」と心配になって、その日は風邪薬を飲んで床に就きました。

 翌朝、熱は下がりましたが、首を触るとやはりコロッと塊があり、少し痛みもありました。そこで自宅近くの病院に電話をかけ「首のリンパ節が腫れている」と話したら、午前中に来院するように言われました。

 病院に着くと、外科の医師が口の中を診察してくれ、その後は処置室に移って針をリンパ節のところに刺し、注射器で吸引して中身の細胞を調べる検査(吸引細胞診)が行われました。

 また、医師は乳がんを心配したようで、4日後にマンモグラフィー検査の予定となり、予約を取って帰りました。

 結局、マンモグラフィー検査では乳腺に腫瘤はなく、吸引細胞診でもがん細胞は認められませんでした。

 しかし、リンパ腺の腫大は変わりません。外科医は「7日後に診察してみて、もし小さくなっていなければ、1個だけリンパ節を切除して組織検査をしましょう。首に少し切り傷がついてしまうけど、なるべく分からないように小さく切ります。病気をはっきりさせることが大事です」と話し、説明書と承諾書を渡されました。

 手術を受けることになったKさんは、田舎の母親に電話をして事情を報告しました。母親は手術の前日に上京してくれると言ってくれ、とても心強く感じました。

 もっとも、実際の手術時間は15分程度でした。切る前の痛み止めの注射がとても痛く感じましたが、何の問題もなく終わりました。

■何もしないで良くなる場合も

 10日後の組織検査の結果は「壊死性リンパ節炎」という診断でした。Kさんには聞いたことのない病名で、外科から血液内科に回ることになりました。

 そして血液内科の医師から、「悪いものでなくて良かったですね。壊死性リンパ節炎の原因はよく分かっていません。何もしないで良くなる方と、ステロイドホルモンを使って良くなる方が半々くらいです。ステロイドホルモンを出してみましょう」との説明がありました。

 処方されたステロイドホルモンを夕方から内服したところ、翌朝にはリンパ節は小さくなっていて、1週間後にはほとんど触れなくなりました。

 血液内科の医師は「腫れはほとんど消えましたね。良かったです。薬はもう必要ないと思います」と言って、さらにこんな話が続きました。

「採血の結果でIL2RとLDHという値が上昇した場合、悪性リンパ腫と間違われます。あなたの場合も少し上昇していましたが、今日の採血ではLDHはもう下がっています。確定診断には、やはりリンパ節を1個取って、組織診断ではっきりさせるしかありません。あなたの場合は、リンパ節を触った感じは悪性リンパ腫の時と同じような、やや柔らかい硬さでした。また違う病気ですが、結核で首のリンパ節が腫れることもあります。この時もこんな硬さですが、塊が連なって腫れることが多いのです。乳がんや肺がんのリンパ節転移の場合は、もっと石のように硬いことが多い。『壊死性』というのは、腫れたリンパ節の中がいわば壊れて壊死になっているからそのような病名なのです。腫れが消えてなくなっても、また再発することもあります。もしまた腫れたり心配なことがあったら、どうぞおいでください」

 壊死性リンパ節炎は発熱とリンパ節腫脹を来し、昔からある若い人に多い病気です。まれな病気でもないのですが、まだ原因がよく分かっていないのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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