アトピー性皮膚炎は症状を繰り返すのが当たり前な病気ではない

積極的な治療をしない医師もいる
積極的な治療をしない医師もいる

 7割以上の成人アトピー性皮膚炎患者が「症状が繰り返されること」に対して不安や悩みを抱えており、5割が「治らないと諦めている」。今年2月に行われた成人のアトピー性皮膚炎患者1000人対象のインターネット調査(「アッヴィ」実施)の結果だ。

「アトピー性皮膚炎は、症状が悪くなったり良くなったりを繰り返すことを当たり前と思っている人が多い。医師も『それがアトピー性皮膚炎』と考え、“治す”つもりの積極的な治療をしない医師もいます。しかし、こうした状況が長期間、症状に悩まされることにつながっていくのです」

 こう言うのは、調査の監修をした大阪府立病院機構大阪はびきの医療センター副院長兼皮膚科主任部長、アトピー・アレルギーセンター長の片岡葉子医師だ。

 アトピー性皮膚炎は、正しく治療をすれば、症状がない状態をキープできるようになる。

「私の外来には全国から重症患者が集まってきます。しかし、そのような患者のうち、6割は当初重症であっても、従来の薬剤の使い方を変えることで良くなります。残り4割も、今は重症患者を対象にした新薬が開発され、改善が期待できる時代になっています」(片岡医師=以下同)

 アトピー性皮膚炎は、皮膚の素質アレルギー体質に、環境因子が加わって症状が出る。

「引き金はさまざまで、またさまざまな要因が絡み合って悪循環を起こしており、単一の原因だけで起きる病気ではありません。原因を探しそれを除去しさえすれば良くなる病気ではないのです。アトピー性皮膚炎の症状が頻回に再発を繰り返し、悪化しているのは、持続する炎症のために複数の悪循環が起きているため。まずは徹底して炎症を止めなければなりません」

 その第一選択が、ステロイド外用薬だ。

 塗る量が少ないと効果がない。人さし指の先端から第1関節までの量が手のひら約2枚分の皮膚の面積に塗る量だ。症状がある部分すべてに塗る。

「毎日、規定の回数、十分量のステロイド外用薬を塗れば、かゆみは消えていきます。しかし、皮膚の症状が消えても、皮膚の下では炎症がまだ消えていません」

■皮膚の炎症が消えてからが大切

 炎症の程度は、TARC(ターク)というアトピー性皮膚炎に関係する物質を測定すれば分かる。

 TARCの検査は血液検査で保険適用だ。成人のTARCは500以下が正常値だが、ステロイド外用薬でかゆみも湿疹もなくなった“一見治ったような段階”でも、TARCがまだ1000以上という人が珍しくない。

「TARCが基準値以上、つまり炎症がまだある段階でステロイド外用薬をやめると、再発します。TARCの数値が下がり、炎症がなくなったと確認できるまではステロイド外用薬を塗り続けなければなりません」

 ただし、最大限の効果と副作用を出さないためにはメリハリが必要だ。片岡医師は「ワン・ツー・スリー」という3ステップで患者に塗り方を説明している。

「ワン」は毎日薬を塗って短期間で皮膚をつるつるにし、TARCも正常レベルにする。

「ツー」は、見た目が良くなっても同じ薬を同様に塗る。

「スリー」では症状のない状態をキープしながら1日置き、2日置きと塗る回数を減らしていく。

 ワン、ツーはそれぞれ1カ月、3カ月目からスリーが目安だ。

「最終的には、ステロイド外用薬は最小限で保湿だけで症状が出ない状態をキープできることを目指します」

 かつての“ステロイドバッシングの影響”がいまだ尾を引いており、自己判断で使用をやめてしまう患者もいる。しかしそれはかえって症状をこじらせる原因だ。“症状が繰り返されることを我慢する”のではなく、メリハリの利いた使い方で、できるだけ症状のない状態を維持する。これによって、アトピー性皮膚炎のつらさから解放される可能性がぐんと高くなるのだ。

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