男性不妊症のすべて

男性患者の診察、診断は具体的にどのように行われるのか

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 男性不妊症の外来では、陰部の診察を必須にしています。

「Aさん、ズボンと下着を脱いで横のベッドに寝てください」

 まずは、陰毛の発育状態、陰茎の大きさ、陰嚢の状態を観察します。次に陰部の触診に移ります。陰嚢の付け根の精索を触り、精管を確認するのです。そして、陰嚢内に精巣が左右に2個あるのを確かめ、さらに触ってしこりがないかどうか、大きさも確認します。

「では、ベッドから起き上がって床に立ってください。そして鼻をつまんで、お腹に力を入れてください」

 その際、陰嚢の付け根の精索の部分を触ります。これが精索静脈瘤の触診による診断方法です。まずは右側から、次に左側を行ないます。

■ブニョブニョを感じたら精索静脈瘤を疑う

「ん? 左側にブニョブニョした感じのものを触れますね。今までご自身で気付かれたことはありますか?」

 多くの場合、初めて指摘されることです。この腹圧をかけたときにブニョブニョ触れるのが精索静脈瘤です。

「次に超音波検査を行ないます。またベッドに寝てください」

 超音波のプローブを陰嚢の精巣に当て、精巣を観察します。次に精索の部分を観察して、精索静脈瘤を超音波で確認します。精索静脈瘤の超音波検査の特徴は血管が拡大して見られることです。画面には黒いやや大きな楕円がいくつも確認されます。この楕円の径を測定して3・0mm以上のものが複数あれば、明らかな精索静脈瘤と言えます。

「では、お腹に力を入れたり、抜いたりしてください」

 続けて行なう血流を見るドップラー検査では、青と赤の乱流が見られ、血液の逆流があることも分かりました。

 精索静脈瘤は、静脈血が腎臓の静脈から精索静脈へ逆流するために、静脈叢が怒張、うっ血をきたした状態になります。解剖学的に左側に多いのが特徴です。

 精索静脈瘤が不妊の原因になるのは、静脈血のうっ滞によって陰嚢内の温度が上昇し、精巣機能が低下するためだと言われています。

「触診と超音波検査の結果、Aさんには左精索静脈瘤があります。これが精液所見に影響している可能性が高いと思います」

■精索静脈瘤は手術で治療が可能な男性不妊

 男性不妊症外来では、この精索静脈瘤に遭遇するケースが非常に多く、患者さん自身に症状がなく、初めて指摘されるケースがほとんどです。

 患者さんには、精索静脈瘤は左側に多いこと、外科的手術で治すことが可能であることを説明します。ただ、初めての男性不妊症外来で、いきなり手術の話をされたら驚いてしまいます。ですから、精液所見が正常な場合は、奥さんに年齢にもよりますが基本は様子を見ます。ただ、ある程度の期間で妊娠がなければ、手術を検討するようにお話しします。

 精液所見が不良な場合は、奥さんの年齢にもよりますが、手術を積極的に勧めています。男性不妊症の中で、精索静脈瘤だけが外科的治療のみで改善させることができる病気だからです。

 ぜひとも、男性不妊症外来で精索静脈瘤の有無を確認しましょう。

小林秀行

小林秀行

1975年、東京都生まれ。2000年東邦大学医学部を卒業。卒後研修終了後に東北大学大学院医学系研究科病理病態学講座免疫学分野に進学。医学博士を取得。ペンシルバニア大学獣医学部にてリサーチアソシエイト。その後、東邦大学医学部泌尿器科学講座に復帰。2014年より現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医。専門は男性不妊症。noteにてブログ「Blue-男性不妊症について」を配信中。

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