大坂なおみが全仏オープンテニスを棄権したニュースは、心の病気への意識を大きく変貌させようとしています。
大坂なおみが当初「試合後の記者会見に参加しない」と宣言した時、称賛の一方で、批判も強くありました。テニス連盟は大坂に対し高額の罰金を科し、態度を変えないならトーナメントからの除名もにおわせるなど“強い球”を打ち返しました。
ところが棄権したのは大坂の方でした。そして「長いうつで苦しんできた」と告白したことで誰もが目が覚めたのです。
その瞬間、世界の論調は大きく変わりました。テニス連盟には批判が集まり、同じテニススターのセリーナ・ウィリアムズから、NBAバスケットやサッカーなどの有名選手までが、賛辞と温かい励ましのメッセージを送りました。
背景にはほとんどクローズアップされることのなかったプロアスリートのメンタルの問題があります。彼らの35%が何らかのメンタルの問題を抱えているともいわれ、しかし心の病へのスティグマから、なかなか公にできないというのがこれまでの現状でした。
ところが大坂が自らのうつをオープンにした直後から、選手のメンタルは肉体の健康と同じく重要と、テニスの4大大会をはじめ多くのスポーツ連盟が選手のメンタルに取り組む姿勢を明らかにしています。
一般の大学生も3人に1人が何らかの心の問題を持っているという数字もあり、コロナ禍で孤独になりがちな若者にも大きな希望を与えているのは間違いないでしょう。
昨年はブラックライブズマターのマスクで人々の注意を喚起した彼女が、今度はメンタルヘルスに対する人々の見方を変えている。素晴らしいプレーで私たちに喜びと希望を与えてくれるだけでなく、社会が生み出す大変な重荷を背負ってくれている彼女が一日も早くハッピーにテニスができるように、今度は私たちが彼女を守る番ではないかと痛感しています。
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