独白 愉快な“病人”たち

顔が「白い」と夫に言われ…東ちづるさん胃がん克服を語る

東ちづるさん
東ちづるさん(C)日刊ゲンダイ
東ちづるさん(女優・一般社団法人Get in touch代表/61歳)=胃がん

 去年の夏から胃の痛みをときどき感じていました。でも、20代の会社員時代に十二指腸潰瘍の経験があって、その症状とよく似ていたので「これは生活の乱れとストレスで潰瘍ができているな」と自己判断してしまったのです。

 病院に行けばコロナ感染の心配もある。それ以上に、今この大変なときに、胃痛で医療従事者の方々に負担をかけたくないという思いがあって、ずるずると先延ばしにしていました。

 すると、11月になって黒色便が出たのです。鮮血ではなかったので、胃か十二指腸の付近で出血しているのだろうと判断しました。その後、いったんは「治った」と思ったのですが、再び黒色便が出てさすがに「どうしようかな」と考えていたら、今度は嘔吐が始まりました。ただ、黒色便と関係があるかどうかもわからずさらに躊躇していると、夫が私に「顔色、白いよ」と言ったのです。「あ、そう。青い?」と返事をしたら、「いや、白い」と。それはやばい……そのときやっと思いました。

 すぐに病院に電話をして症状を告げると、「すぐ来てください」と言われて病院に行きました。到着して即車椅子に乗せられて医師の目の前に連れて行かれると、医師が私の下まぶたを“アカンベー”するように見て、「すぐ入院手続きして」と言うのです。「え? ちゃんと診察してください」と返すと、「このまま放っておいたら命をなくす人もいるんですよ」と言われ、結局そのまま1週間の入院になりました。やはり胃潰瘍で出血していて、内視鏡で縫う手術を受けました。

 がんが分かったのは退院から2~3日後です。「99%良性だろう」と言われていたのですが、病院から呼び出しがあったので、「あ、1%の悪性だったんだな」と察しました。医師から告げられる前に「がんだったんですね」と切り出し、極めて初期のがんでスキルス性ではないことを確認しました。

 治療は、胃の2分の1切除手術を提案されました。でも、私は「ほかにありませんか?」と何度も食い下がったんです。「切除手術がスタンダードなことは分かりますけれど、『切るほどじゃなかった』という確率はどのくらいですか?」と聞いてみたのです。すると、「90%」という回答。ならば2分の1切除じゃない方にしようと思い、最後の最後の選択として出てきた「内視鏡的粘膜下層剥離術」を選びました。リンパ節に転移がなく、場所や大きさが条件に合ったからこそできる手術です。

 じつは手術する前にセカンドオピニオンも受けました。ボランティア活動の中で私がいつもおすすめしていることだから、自分もやらなきゃと思って……。でも結果は同じだったので、最初の病院で手術を受けたのです。

 ボランティア活動で学んだこととしてもうひとつ大きいのは、検査結果や治療の説明を受けるときは、許可を得て録音や録画をすること。先生のお話をすべて覚えていることはなかなかできないですし、今回はコロナ禍で家族も診察室に同席できなかったのでなおさらです。あとから家族にそれらを送って情報共有しました。

■入院中も仕事をしていた

 病院の都合で入院延期もありましたが、今年2月に10日間ほど入院して、無事、仕事復帰しました。というか、入院中から仕事していました。

 じつは「東京2020NIPPONフェスティバル」のひとつとして、8月22日から世界配信される「MAZEKOZEアイランドツアー」という映像作品の総指揮を担当していまして、その台本書きやら音楽選び、衣装デザインなどを病室でもやっていたのです。家にいるより集中できたので、むしろはかどりました。

 でも、胃がんになってつくづく思ったのは、「粗末に扱ってごめんね」という自分の体への謝罪と反省です。私の場合、「自分自身がこうした病気をつくった」と思っています。まず、父方にも母方にも誰もがんになった人がいないんです。さらにコロナ禍に見舞われて、生活が乱れに乱れました。

 仕事もボランティア活動もなくなり、「明日までにこれをしなきゃ」ということもないから、朝までダラダラ映画を見たり、お酒を飲むことが増え、不安や不満もたまる一方。食の乱れやストレスはがんのもとだと知っていたのに、「自分はがんの家系でもないし、健康だから大丈夫」と過信していたのです。

 ある意味、胃潰瘍になってよかったと思っています。そして、見過ごされてもおかしくないほどの初期がんを見つけていただいたことに感謝しています。入院したのはコロナ病棟のある病院だったので、本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。

 内臓を休めることも必要だと思い、今は1日のうち12時間以上は胃に何も入れない時間をつくっています。入院中に経験した2~3日のファスティング(断食)も体に良いと感じ、月1回の習慣にしようと考えています。

 まだ実践していないですけど(笑い)。

(聞き手=松永詠美子)

▽あずま・ちづる 1960年、広島県生まれ。会社員を経て25歳で芸能活動をスタート。女優、司会、講演、執筆など多彩に活躍し、骨髄バンク、ドイツ平和村、障がい者アートなどのボランティア活動も約30年続けている。2012年に一般社団法人「Get in touch」を設立し、誰も排除しない社会を目指し活動している。

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