男性不妊症のすべて

精巣をうっ血させる精索静脈瘤の手術は高校生でも受けるべきか

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 精索静脈瘤の治療原則は、内精索静脈を遮断することでよりスムーズな血流をもたらし、精巣へのうっ血を改善させることです。ただし、健康な男性の15%に精索静脈瘤が認められると言われているので、外科的手術を行っても全例で精液所見が改善するわけではありません。それでも、精液所見が不良で精索静脈瘤の程度がひどく、他に原因がなく妊娠を希望する患者さんが手術対象となります。

 治療方法は大きく分けて2種類あります。精索が通る鼠経管の上方で精索静脈を処理する「高位結紮術」と鼠経管の下方で処理する「低位結紮術」です。平成27年度の全国調査では、精索静脈瘤手術は1年間で1388件が行われていました。そのうち、低位結紮術が1202件(86・6%)と最も多く行われています。また、他の方法としては腹腔鏡手術があります。

■全国で8割以上行われている低位結紮術

 全国で8割以上行われている低位結紮術は、手術用顕微鏡を用います。特徴は低侵襲なことで、再発率や合併症である術後の精巣水瘤の頻度が最も低いと言われています。ただし、操作が細かいので、手術には熟練さが必要です。

 実際の方法については、左精索静脈瘤の場合、左鼠経部の皮膚を約2・5~3・0㎝切開して操作を進め、精巣につながる精索と呼ばれる束を体外へ露出させます。精索には、「動脈」「静脈」「精管」「リンパ管」「神経」が通っています。手術用顕微鏡を用いて、静脈だけを結紮する手術を行います。動脈を傷つけると精巣委縮、リンパ管を損傷すると精巣水瘤を起こす原因になるので、熟練度が要求されるのです。

 手術後の注意点として、術後3~4週間は下半身に力を入れる運動は控えるように指導します。不妊治療の再開時期に関しては、手術直後から許可しています。

 手術の時期に関しては、精液所見が不良である場合は早めに手術をお勧めします。一方、精液所見が正常な場合はまずは様子を見て、約半年の間に妊娠がなければ手術を検討します。ただし、女性の年齢が35歳以上の場合は、妊孕性が低下傾向であるため早めに手術を行うようお話ししています。

■体格ができあがっていれば手術してもОK

 精索静脈瘤は、思春期や高校生の男子でも見られることがあります。症状は無症状だったり、精巣痛を訴えて発見される場合もあります。

 手術に関しては、精巣に明らかに左右差が見られる場合はすぐに行った方がいいと考えます。ただ、思春期の男子は体格が小さいと手術の難易度も上がります。そのため、精巣に左右差がなく無症状であれば、身長などの成長が止まった段階の時期に手術を行う形でいいでしょう。

 高校生の場合は体格もできあがっているので、手術は成人男性と変わりありません。手術時期はいつでもいいと思います。

 精索静脈瘤手術は低位結紮術が主流です。ただし、熟練した医師が行わないと合併症が発生するリスクがあるので、経験豊富な施設で手術を受けることをお勧めします。

小林秀行

小林秀行

1975年、東京都生まれ。2000年東邦大学医学部を卒業。卒後研修終了後に東北大学大学院医学系研究科病理病態学講座免疫学分野に進学。医学博士を取得。ペンシルバニア大学獣医学部にてリサーチアソシエイト。その後、東邦大学医学部泌尿器科学講座に復帰。2014年より現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医。専門は男性不妊症。noteにてブログ「Blue-男性不妊症について」を配信中。

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