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犬を飼うことがひとり暮らし高齢者のメンタルを改善する?

写真はイメージ
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 高齢者のひとり暮らしは、社会的な孤立をもたらす主な原因のひとつです。高齢者の社会的孤立はまた、心臓病や慢性的な痛み、あるいは孤独感やうつ病など、心身状態を悪化させるリスクとなります。

 他方で犬などのペットを飼うことは、孤独感をやわらげ精神的安定をもたらすことが知られています。ただ、ペットの飼育と社会的に孤立した高齢者の心身状態の関連性については、よく分かっていませんでした。そんな中、動物学に関する国際誌に、日本人を対象とした研究論文が2021年2月24日付で掲載されました。

 この研究は東京都大田区に在住している1万5500人を対象としたアンケート調査です。回答が得られた9856人(平均79・9歳)を対象に、心理的な健康状態と、社会的孤立度やペット(犬と猫)の飼育状況の関連性が検討されています。なお、研究結果に影響を与えうる年齢や性別、収入水準などの因子について、統計的に補正を行い解析されました。

 その結果、社会的に孤立している高齢者は、犬を飼っている(または飼ったことがある)人に比べて、犬を飼ったことのない人で、心理的な健康状態が悪いと報告する可能性が1・22倍、統計的にも有意に増加しました。他方で猫の飼育と心理的な健康状態については関連性を認めませんでした。

 犬を飼うことができる人は、そうでない人に比べて、もともと心身状態が良い傾向にあったのかもしれません。そのため、犬を飼うことが直接的に高齢者の心身状態を改善していると結論することは難しいように思います。とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大により、今まで以上に社会的な接触を避けることが求められる中で、犬と触れ合うことは人の生活を豊かにする側面も強いことでしょう。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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