新型コロナワクチンの疑問に答える

ワクチンの起源はいつ? 撲滅されたウイルスはあるのか

新型コロナのワクチンはmRNAワクチンが世界の主流に
新型コロナのワクチンはmRNAワクチンが世界の主流に(C)ロイター

 新型コロナウイルス感染症のワクチンは、ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンが世界の主流になっている。mRNAの人類史上初の実用化で、効果や副反応が注目されているが、今回は「ワクチンの歴史」をひもといていく。

【Q】ワクチンの起源は?

【A】「1796年、イギリスの開業医エドワード・ジェンナーは牛痘を接種することで、天然痘の発症が防げることを発見しました。人類初のワクチンはここから始まっています。ワクチン(Vaccine)という言葉は、ラテン語のVacca(雌牛の牛痘ウイルス)が由来。ジェンナーは、牛痘に罹ったことのある牧場夫が痘瘡の流行時に罹患しなかったことに慧眼をもって観察をしました。そして、牛痘に罹った牛の膿疱部位の膿汁を処理したものを子どもに接種したのです。現在は、私たちの人体に接種して、体内の病原菌と闘う抗体や細胞性免疫などの反応を生じさせるもののことをワクチンと称しています」

 このさらに100年後の1880年代に、狂犬病のワクチンを開発したフランス人のパスツールと、炭疽菌・結核菌・コレラ菌の発見者であるドイツ人のコッホが、微生物を使ったワクチンの科学的な基礎をつくった。2人は「近代細菌学の開祖」と呼ばれている。北里柴三郎(写真)も、19世紀終わりにコッホの研究所で破傷風菌やジフテリア菌の研究を行っていたことが知られている。

【Q】ワクチンによって撲滅されたウイルスはあるのか?

【A】「最も有名なのがこの天然痘です。日本でも江戸時代に多くの武将が感染したという記録が残っていますが、ジェンナーのワクチンによって世界中から消失しました。WHOは1980年に『地球上から天然痘を撲滅させた』と宣言しています。次にポリオが現在、東南アジアの一部を除いて終結しています。ポリオは小児麻痺ともいわれ、流行性脳脊髄膜炎などを起こします。しかし80年代に、ホルマリン処理した不活化ワクチンを改良した『強化型不活化ワクチン』の開発によって、2回接種で95%、3回でほぼ100%という高い防御率の免疫を獲得し、抗体も長期間持つことが分かっています。88年には世界で年間35万の症例が発生していましたが、2015年には70例まで減少しました」

 歴史上3度、大流行を起こした「ペスト」(黒死病)は、1894年に北里柴三郎らがペスト菌を発見し、ノミを媒介しネズミからヒトに病原菌が感染することが判明。流行を終息させることに成功した。

【Q】ペストもワクチンで終息した?

【A】「これはワクチンとは関係ありません。ネズミやシラミの撲滅によって感染源を絶ったことに起因しています。また抗生物質が登場し、感染した患者を山奥に収容したり、船の発着場の検疫で隔離を徹底するなどの対策で、ほぼ終息に向かったと考えられています。病原体が変異を繰り返すマラリアも、よいワクチンは開発されていませんが、媒介するハマダラカの撲滅によってヒト感染の割合は減ってきています。感染症の撲滅は環境の変化も関係しています」

 新型コロナウイルスについては、WHOは〈コウモリから別の動物を介してヒトへと感染した〉と、結論付けている。

【Q】mRNAワクチンの開発は今後はやる感染症にも有効か

【A】「mRNAワクチンができたことで、これまで難しいとされてきた微生物の撲滅に大きな期待が持たれています。従来はウイルスを細胞内で大量培養したワクチンなどを打つことで免疫を獲得しましたが、今回は遺伝子情報を用いたmRNAワクチンのため、さまざまなリスクを減らせると考えられています。今後、インフルエンザワクチンなど多くのワクチンでも新たなアプローチが進むと考えられます」

奥田研爾

奥田研爾

1971年横浜市立大学医学部を卒業後、米国ワシントン大学遺伝学教室、ハーバード大学医学部助教授、デューク大客員教授、スイスのバーゼル免疫研究所客員研究員として勤務。2001年横浜市立大学副学長、10年から名誉教授。12年にはワクチン研究所を併設した奥田内科院長。元日本エイズ学会理事など。著書に「この『感染症』が人類を滅ぼす」(幻冬舎)、「感染症専門医が教える新型コロナウイルス終息へのシナリオ」(主婦の友社)、「ワクチン接種の不安が消える コロナワクチン114の疑問にすべて答えます」(発行:日刊現代/発売:講談社)のほか、新刊「コロナ禍は序章に過ぎない!新パンデミックは必ず人類を襲う」(発行:日刊現代/発売:講談社)が8月に発売される。

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