男性不妊症のすべて

肌つやつや、ひげもあまり生えない男子高校生に問題はある?

写真はイメージ
写真はイメージ(C)PIXTA

 精子は男の子が生まれてすぐに作られるわけでなく、第二次性徴が始まらないと精子形成は起こりません。第二次性徴とは、思春期になって現れる性器や性器以外の身体の各部分に見られる性の特徴を指します。具体的には、小学生の高学年から見られる声変わり、ひげや陰毛が生えたりすることです。

 この身体の変化には「テストステロン」が関係しています。男性らしさを作るホルモンのことです。第二次性徴で精巣も大きくなって精子形成が始まります。

 夢精と呼ばれる朝起きたときにパンツが精液で汚れていたという経験はありませんか? 多くの男性が、この時期にマスターベーションも経験します。外来でマスターベーションを初めて行なった時期を聞くと、個人差はありますが、中学1年生や2年生である13歳や14歳に多いようです。

■「低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症」とは

 この第二次性徴の時期にホルモンの働きがうまくいかないと、精子形成が行なわれません。結婚して子供を希望したときに無精子症で発見される「低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症」という病気があります。

 ゴナドトロピンとは、性腺刺激ホルモンといって、脳の下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体ホルモン)のことを指します。男性の場合、FSHは精子形成に関与し、LHは精巣からのテストステロンの分泌に関与します。精巣の大きな役割は、精子形成とテストステロンの分泌に大別されるのです。

 それでは、ゴナドトロピンが思春期の時期にまったく分泌されないとどうなるでしょうか? 声変わりせず、ひげや陰毛も生えません。そして、精子形成も起きません。身長に関しては成長ホルモンが関係するので、低かったり高かったりさまざまです。

 26歳のAさんは、夫婦で不妊検査を受けて「無精子症疑い」と診断され、私のところに紹介されてきました。Aさんは声変わりはしておらず、ひげも生えていません。身長は高く、細身の体型ですが、やや脂肪が多い印象でした。陰部の診察では、陰毛はまったく生えておらず、陰茎は小さく親指ほどの大きさです。精巣は小指の先くらいの大きさで非常に小さいといえました。

 診察所見から、第二次性徴がまったく見られていないと判断しました。採血を行なうと、FSHとLHが正常値に比べて非常に低値でした。精液検査では、精液の量が少なく無精子症でした。以上の結果より、低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症を疑いました。そして、低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症を診断する特殊検査を施行し、診断が確定しました。

■治療半年で精子が作られ、声変わりしてひげも生えてきた

 治療は、欠乏しているゴナドトロピンを補充します。効果はてき面に表れ、治療開始から6カ月過ぎて精子が見られるようになりました。また、声変わりもして、ひげや陰毛も生えてきました。Aさんは「ニキビがひどくなりました」と、笑顔で受診されました。遅れていた第二次性徴が見られているようです。顕微授精で無事に奥さんが妊娠もできました。

 低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症は非常に稀ですが、治療で無精子症を治すことが可能な病気です。治療に関しては、特定疾患医療費助成制度の給付で治療を受けることができます。思春期を過ぎてもひげが生えない、陰毛が生えない、声変わりが見られないなどの症状があれば、ぜひ専門家に相談してみてください。

小林秀行

小林秀行

1975年、東京都生まれ。2000年東邦大学医学部を卒業。卒後研修終了後に東北大学大学院医学系研究科病理病態学講座免疫学分野に進学。医学博士を取得。ペンシルバニア大学獣医学部にてリサーチアソシエイト。その後、東邦大学医学部泌尿器科学講座に復帰。2014年より現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医。専門は男性不妊症。noteにてブログ「Blue-男性不妊症について」を配信中。

関連記事