【Q】女子プロテニスプレイヤーの大坂なおみさんが「うつ病」を告白しました。それで思い出したのですが、以前、「うつの人は世界がばやけて灰色で暗く見える」と聞いたことがあります。本当でしょうか? うつ病になると目の機能に変化が出るということですか?
【A】うつ病とは、日常生活に強い影響が出るほどの気分の落ち込みが続いたり、何事にも意欲や喜びを持ったりすることができなくなる病気です。
その症状は多岐にわたり、痛みの耐性が低下して全身に痛みが出るほか、視力の低下など目にも障害が起きることが知られています。
実際、2010年にドイツで行われた研究では、メンタルヘルスの問題が実際に人の視力に影響を与えている可能性があることが示唆されています。80人を対象にしたその研究では、うつ病の人は淡い白黒の縞模様を認識することが困難でした。研究者は「コントラスト知覚」と呼んでいますが、これは、うつ病によって世界がぼんやりと見える理由を説明できる可能性があります。
また、「視覚障害は抑うつ症状と関連している~全国的なドイツの研究の結果」という精神科の論文が2018年に発表されています。この論文では2008年から2011年までの成人(18~79歳)7783人を対象に、①4メートルの距離で顔を見る、②新聞を読む――の2つの質問に対する回答と抑うつ症状との関係を調べたものです。抑うつ症状については10以上の項目で定義されました。
その結果、抑うつ症状が2週間続いている人は、遠方視力が軽い困難に陥っている割合が20・8%、近方視力で軽い困難に陥っている割合が17・3%、そして深刻な困難は14・4%だったと報告しています。また、日常生活に深刻な障害が出ている割合は16・7%あったそうです。つまり、うつ症状のある人は遠くも近くも見るのが難しいケースが多いということです。
これらはうつ病によって視力障害が生じたケースですが、患者さんの中にはもともとうつ病の素因があり、視力の低下によってそれが表面化して眼科を受診する場合もあります。眼科医はそれに気づく必要があります。 いずれにせよ、うつ病を患った人は「世界が違って見える」のは事実のようです。描いた絵によってその人の心の様子を推定する“テスト”がありますが、それはこうしたこととも関係しているのかもしれません。
みんなの眼科教室 教えて清澤先生