がんと向き合い生きていく

妻が胃がんに 心まで病気にならないよう気分を変えたいが…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 高血圧症でC病院の内科に通院中のBさん(58歳・男性)がこんなお話をしてくれました。

 ◇  ◇  ◇ 

 外来の待合室では、ひとつ置きの椅子に座り、全員がマスクをして話し声もなく、じっと自分が呼ばれるのを待っています。誰かが、座っている私の前を黙って頭を下げて挨拶して、通り過ぎていきました。帽子をかぶり、マスクをしているから誰だか分かりません。

 それでも、私も黙って頭を下げて挨拶をしました。人と人とが離れ、なんだか心も離れてきて、人間の社会が違ってきてしまった気がしています。

 我慢、我慢、我慢……。時にニコッとほほ笑むのは、スマホに送られてきた孫の写真と動画を見た時くらいです。

 待合室のテレビは音声を小さくしてありますが、テレビではコロナ対策の議論をしています。ある出演者が「後手後手だ」と言うと、政治家は「全力をあげて対策を行っていきます」と答えました。しかし、この「全力をあげて……」はもう聞き飽きました。とにかくコロナ感染を抑えること、早くワクチンを……と思いながら見ていました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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