独白 愉快な“病人”たち

もうダメだと思った デンジャラス安田さん髄膜腫を振り返る

デンジャラス安田さん
デンジャラス安田さん(C)太田プロ
デンジャラス安田さん(お笑い芸人・構成作家/53歳)=髄膜腫

 僕は医学の知識も何もありません。でも、自分の脳のMRI画像が見えた瞬間、「こりゃもうダメだ」と思いました。左右対称であるはずの脳の一部に子供の拳ぐらいの大きさの丸くて黒い影が不自然に存在していたのです。その時のパソコン画面をスマホで撮影したものを、今でも会う人会う人に見せています。みんな「えっ!」と言って絶句するリアクションになりますよ(笑い)。

 手術をしたのは、去年の夏でした。その1年ほど前から右腕がたまに言うことをきかない違和感がありました。一瞬、「あれ?」となるけれど、すぐ治るので放っているとまたちょっとおかしくなる……といった程度。健康診断で異常はないですし、ほかにこれといった症状もなかったのでずっと放置していました。

 そのうち、右手で家の鍵を開けようとしても鍵穴にうまく挿せなかったり、リュックを背負いたくても右腕が思ったように動かなくて焦ることが多くなりました。自転車に乗るときに右脚が上げづらかったりもして、一昨年の年末にかかりつけ医に相談したら、「脳神経外科を受診してみたら?」と言われ、大きな病院を紹介されたのです。紹介状も書いてもらって、あとは行くだけだったのですが、モタモタしていたらコロナの第1波が始まってしまい、「コロナが収まってからにしよう」と思っていたら、季節は夏になってしまいました。

 そんなある日、熱が出て、大きな病院でPCR検査を受けることになりました。行くはずだった脳神経外科のある病院です。幸いPCRの結果が「陰性」だったので、ついでにそのまま脳神経外科を受診することにしました。

「脳梗塞なら一度腕が動かなくなったら動かないままなので、おそらく脳梗塞ではないけれど、念のためMRIを撮りましょう」

 そう言われて撮った結果が、例の画像だったのです。

 担当医の第一声は、「今日は1人で来たの?」でした。いよいよダメなんだと思いました。しかも、追い打ちをかけるように「ちょっと待っててください。院長を呼びますから」と言われたのです。あのMRI画像の後に「1人で来たの?」と「院長呼びます」ですから、不安が確信に変わりました。「こりゃ終わりだ」と……。

 結局、2時間ぐらい待たされたでしょうか。院長先生がやってきて、「かなり大きいので手術しないとダメです」と言われ、入院や手術の日取りの話になりました。でも、先生は黒い影が何なのかなかなか教えてくれないので、こっちはずっと不安なまま。「奥さんと一緒にいつ来られますか?」と聞かれた後、最後の最後に「髄膜腫かな。悪性だと輪郭がギザギザしているけど、これはきれいに丸いから良性だと思う」と教えられました。

 この時の先生の「良性」という言葉を信じて、僕はこのあと一切、髄膜腫のことを調べたり聞いたりしませんでした。奥さんと再び病院へ行った時も僕は一切質問せず、なるべく目をそらして怖い情報を入れないようにしていました。

■面会に来た妻に抱きつかれてビックリ

 入院は「10日間」とのことでした。入院前日の番組収録で、演者やスタッフに報告すると「入院中のことを毎日メモしておけば?」と勧められたので、できる限りスマホにメモしましたよ。「10日後に退院する安田」ってタイトルをつけて(笑い)。

 手術は朝9時から午後2時半までかかったようです。全身麻酔だったので、気づいたらICU(集中治療室)にいました。開頭した頭はしっかりあおむけであまり動かせないよう特殊な枕にスッポリはまっていました。痛み止めがよく効いていたようで、メモによると翌日にはもう朝食の納豆を食べています。

 すこぶる順調な入院生活の中でひとつ想定外だったことがありました。手術の翌々日、コロナ禍で原則家族も病室に入れない状況の中、例外的に面会が認められた奥さんから急に抱きつかれてビックリしたんです。いつも割と冷静な奥さんなので事情を聴くと、どうやら手術中の映像を見せてもらったようでした。なかなかの“画”だったようです。

 いまどきなのでLINEやメールで画像や文字のやりとりはできましたが、子供たちが病院まで来てくれても3階の窓から手を振ることしかできないのが歯がゆかった。僕に見えるように大きな字で、「パパ、がんばって」と書いてくれた画用紙を見た時は本当にうれしかったです。

 声を大にして言いたいのは、月並みですけど「病院は早く行った方がいい!」ということ。腫瘍が良性だったのは結果論にすぎません。そう学んだので、じつは退院後に長年の「睡眠時無呼吸症候群」を治療すべく、呼吸器内科を受診し、今は「CPAP(シーパップ)」(気道が塞がらないように空気を送り込む装置)を付けて寝ています。おかげさまで高めだった血圧が少し下がりました。

(聞き手=松永詠美子)

▽1967年、東京都生まれ。郵便局員を経て芸能界へ。88年にノッチとお笑いコンビ「デンジャラス」を結成し、ツッコミを担当。「タモリのボキャブラ天国」などで人気を博す。2001年ごろから構成作家としても活動するようになり、ラジオやテレビで数々のお笑い番組を手掛けている。12年に19歳年下の女性と結婚し、現在3児の父。

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