新型コロナ禍で何が起きているのか

寿命が延び、出生数減少で日本は深刻な人口動態へ

(C)Ca-ssis/iStock

 コロナワクチンの予約や副反応などで世間が騒いでいる裏で、日本の人口動態が大変なことになりつつある。6月3日に公開された厚生労働省の人口動態調査(速報値)の数字を見ていこう。

 まず死亡数である。昨年1年間の死亡数は138万4544人だった。これは一昨年と比べて9373人少ない数字だ。つまりコロナ禍にもかかわらず、むしろ死亡数が減っている。

 死亡数はここ数年、毎年2万人前後のペースで増え続けてきた。高齢者が増えたためだ。このペースでいくと、2020年は141万人前後になると思われていた矢先に、新型コロナのパンデミックが始まった。ヨーロッパやアメリカなどの悲惨な状況が連日報道されたから、当然日本でも大量の死者が出ると危惧された。ところが、蓋を開けてみるとコロナの死者は二千数百人にとどまった。そのうえ、日本全体の死亡数もコロナ前の予想より9000人以上も少なかった。

 死者数が前年を下回ることはそれほど珍しいことではない。1990年以降何度かあった。しかしコロナ禍にも関わらず死者が減ったのは、まったく想定外だったと言っていい。もちろん死者が少なかったのはいいことだし、それ自体が問題というわけでない。だがそれによって、おそらく平均寿命がさらに伸びたはずである。毎年7月に入ると、前年の平均寿命が発表されるので、どれだけ伸びたか注目したい。

 ちなみに米国ではコロナによって平均寿命が1歳分短くなったという。 もうひとつ、出生数が驚くほど下がった。昨年の出生数は87万2683件で、1899年に統計をとり始めて以来最少となった。19年と比べても2万5917人減(マイナス2.9%)である。その結果、日本の総人口は1年間で51万人以上も減少した。栃木県宇都宮市がそっくり消滅したのと同じ人数だ。

 つまりコロナ禍の最中、平均寿命がさらに伸び、子供がいっそう減り、総人口も減り、高齢化が一段と進んだのだ。しかもこの間に、多くの現役世代が収入減や失業を経験した。日本全体の経済は悪化したまま、回復の兆しがなかなか見えてこない。

 そうなると、増え続ける高齢者の社会保障費を、誰が負担するのかが大きな問題になってくる。政府は75歳以上の医療費の窓口負担を2割に引き上げたばかりだが、それだけでは到底間に合いそうもない。総選挙で自公が勝とうが野党連合が勝とうが、早晩3割負担になることは避けられないだろう。それどころか高齢者福祉の予算を大幅に削る可能性が高い。

「貧乏人の子沢山」という言葉があるが、コロナ禍の最中、日本は「老人ばかりの貧乏国家」への道を突き進みつつある。子沢山な家庭は未来に希望が持てるが、老人ばかりの国に明るい未来は来るのだろうか。少なくとも、経済を支える新しい産業が生まれてくる可能性は低そうだ。

 それだけでは終わらない。婚姻数も激減した。昨年結婚したカップルは約53万8000組で、一昨年(61万6000組)と比べてなんと12.7%も減った。コロナが収まるまで結婚を延期しようというカップルが多かったのかもしれないが、景気悪化の影響もあって結婚自体を諦めた、あるいは結婚する気がなくなった、という人も大勢いたのではないだろうか。このままでは男女とも生涯未婚率がさらに上昇し、「おひとりさま」だらけの社会になるのは避けられそうもない。

 唯一、明るい(?)のは離婚数が減ったことだ。19万7000組が離婚したが、一昨年と比べれば1万6000組(7.7%)も減った。「夫婦で頑張れば、なんとか乗り越えていける」ということなのかもしれないが、ホンネは別れたいけどお金のことを考えると別れられない……そんな中高年の心情の表れのような気がしてならない。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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