男性不妊症の外来では、「どんな運動が精子に良くないですか?」「自転車は男性不妊症の原因になりますか?」といったスポーツ活動に関して聞かれることがしばしばあります。今回はスポーツ活動が男性の生殖機能に与える影響を中心に解説をしていきます。
「PubMed」というアメリカのNCBI(国立生物化学情報センター)が提供しているデータベース検索システムがあります。そこで「bicycle」「sperm」という単語で検索をかけたところ8件がヒットしました。この中で興味深い内容の論文をご紹介します。
2019年の「European urology focus」に掲載されたマイアミ大学の論文です。タイトルは「メジャースポーツとレクリエーション活動における男性の生殖機能への副作用」です。1970~2017年までに報告されているメジャースポーツとレクリエーション活動が男性の性機能や生殖機能に影響する論文を調査した結果を報告しています。
アメリカンフットボールは頭部外傷の可能性が高いスポーツです。この論文では、アメフトによるケガによって脳の下垂体から精巣での精子形成のほか、テストステロン産生に必要なホルモンであるゴナドトロピンの分泌低下や勃起障害(ED)の可能性が高いと報告されています。
■サッカーとバスケは精索静脈瘤の有病率が高い
サッカー、バスケットボール、ハンドボールは精索静脈瘤の有病率と重症度の上昇に関連していました。逆に水球選手は精索静脈瘤の有病率と重症度が低いことが分かりました。このことは、精巣の温度が関係していると思われます。水球競技は水の中でプレーするので精巣の温度が高くならないのでしょう。しかし水球は水中の格闘技と呼ばれ、精巣を蹴られたりするリスクは高いので、精巣外傷には気を付けたいところです。
最後に自転車に関しての報告です。コロナ禍でそれまで電車通勤だったのを自転車通勤に変えた方や、健康のために自転車に乗り始めた方もいるかと思います。これから紹介するサイクリングは、日本でいう“ママチャリ”ではなく、ロードバイクをイメージしてください。
ロードバイクは乗らない人にはピンとこないかもしれませんが、ヘルメットとサングラスを着用し、ピタッとしたサイクルジャージを着て、“レーパン”と呼ばれる膝上までのピタピタのレーサーパンツを履いて乗る乗り物です。ビンディングシューズといってペダルとシューズが器具で一体化できることもあり、ママチャリとは比べ物にならないスピードで走ることができます。
ロードバイクを始めた頃は誰もが経験すると思いますが、お尻が非常に痛くなります。乗る姿勢ができていないことや、サドルが新しくて自分の形にフィットしていないのも原因です。プロのロードレーサーは、長年使用しているサドルが傷んできたら表の革を張り替えて使っている選手もいるくらいサドルにはこだわります。また、慣れてくるとサドルにドカッと乗るのではなく、手足に体重を分散させた乗り方になるため、あまりサドルに体重を預けるというイメージではなくなり、長時間乗ってもお尻が痛くなりません。
■3時間超ロードバイクに乗る人は高EDリスク
かつて、サイクリングはEDと関連性があると報告されていました。ただ最新の報告では、たしかに高強度のサイクリングはEDと関連がありますが、街乗り程度ではEDの関連性は低いと言われています。
では、この「高強度」とはどういった内容でしょうか? 報告では、1700人の40~70歳のサイクリストを検討した調査の中で、週に3時間以上サイクリングを行なう場合にEDとの関連性が高いと示しています。
この「3時間」は強度が高い乗り方です。本気でロードバイクに乗っている方は、EDに対して気を付けた方がいいかもしれません。しかし、街乗り程度の自転車に乗る方はEDの可能性は低いと考えてもらって結構です。
個人的には、ロードバイクを使ったフィットネスは非常に優れた有酸素運動ですのでお勧めします。心拍数140bpm以上に追い込むことができ、長時間行なうことができる運動だからです。カーレーサーや女性モデルもフィットネスでロードバイクを取り入れています。ぜひ、みなさんも適度な運動を心がけてください。
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