男性不妊症のすべて

精液に問題がある人はなぜ短命なのか? 健康のバロメーター

生活スタイルは努力で改善できるが…
生活スタイルは努力で改善できるが…(C)PIXTA

 男性不妊症は精液所見の結果で診断されます。そのため、全身の状態を詳しく調べることなく、体外受精などの不妊治療に進む場合がほとんどです。でも、本当に精液に影響を与えたであろう、全身の状態を調べなくていいのでしょうか?

 今回は、男性不妊症の裏に潜む他の病気について解説します。

 精子を作る造精機能障害の多くは原因不明で、さまざまな全身疾患と造精機能障害で共通している遺伝的要因、環境因子、生活スタイルなどが影響していると考えられています。しかし、これらの関連は複雑に絡み合っているので、原因を明確に出せない状況となっています。

 まず、全身疾患の中でもメタボリックシンドロームと発がんの関連に絞って説明します。

 2014年のアメリカからの報告に、男性不妊症外来を受診した患者の精液所見と生存率を調査した論文があります。結果は、精液所見に2項目以上の異常があると、10年生存率が有意に低下すると報告されています。他のグループからも精液所見と生存率の関係性を調査した論文があり、同様の結果が得られています。つまり、精液所見が悪いと長生きできない可能性があるということです。

 そして造精機能障害は、男性不妊症の問題だけではなく、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、糖尿病といった生活習慣病がリスク因子と示唆されています。

■精液所見が不良の男性はがんの発病率が高い

 2013年の報告では、総運動精子数の低下と肥満度を表す体格指数であるBMI(body mass index)の関連性を示しており、BMI25以上の肥満で精液所見の悪化を認め、BMIが上昇するほど精液所見は右肩上がりに悪化を認めています。つまり、肥満になればなるほど精液所見は不良になるということです。しかも、肥満があると、血圧の上昇、高血糖、脂質異常が見られやすくなり、メタボリックシンドロームを引き起こします。

 さらに、精液所見が不良の男性はがんの発病率が高いことが報告されています。造精機能障害は何らかの遺伝子制御機構の異常で起きており、発がんにも関係しているためと言われています。特に精巣がん、大腸がん、悪性黒色腫、前立腺がんにおいて関連性が高いことが報告されています。

 こうした報告を見ても、精液所見は健康のバロメーターだと言えます。その証拠に精液所見は常に一定の結果が得られるとは限りません。非常に疲れているときに検査をすると、普段が正常所見の人でも結果が悪く出るケースがあります。また普段は結果が悪い人でも、日常生活を改善することで良い結果になることがあります。精液所見は変動が大きいことを理解してください。そのため、複数回検査をすることをお勧めしています。

 遺伝的要因は生まれ持ったものなので改善はできませんが、環境因子や生活スタイルは努力で改善が見込めます。禁煙をしたり、適度な運動をして健康的な身体を保つことが、精液所見の改善につながります。

小林秀行

小林秀行

1975年、東京都生まれ。2000年東邦大学医学部を卒業。卒後研修終了後に東北大学大学院医学系研究科病理病態学講座免疫学分野に進学。医学博士を取得。ペンシルバニア大学獣医学部にてリサーチアソシエイト。その後、東邦大学医学部泌尿器科学講座に復帰。2014年より現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医。専門は男性不妊症。noteにてブログ「Blue-男性不妊症について」を配信中。

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