進化する糖尿病治療法

糖尿病予備群も危ない 心筋梗塞や脳卒中のリスクが2倍以上

写真はイメージ
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 糖尿病予備群とは、「血糖値が正常より少し高いが、糖尿病と診断される値よりは低い状態」を指します。これを、「まだ糖尿病じゃない。このままでいいんだ」と捉える人が多いのですが、糖尿病予備群は「予備群と言われてしまった。これはなんとかしないとまずい」と考えるべき状態です。

 米国で行われた調査で、糖尿病予備群も糖尿病と同様、対策が必要な状態であることを示す結果が出ました。

 ミシガン州のボーモント医療システムで2006~20年に治療を受けた18~104歳の2万5829人を対象に、すべての患者を追跡調査。米糖尿病学会では、HbA1cが5・7~6・4%、空腹時血糖値が100~125㎎/デシリットル、または経口ブドウ糖負荷試験で140~199㎎/デシリットルであると糖尿病予備群(米国ではprediabetes=前糖尿病)としており、追跡調査対象の2万5829人のうち、糖尿病予備群は1万2691人、HbA1cが正常な人は1万3138人でした。

 5年間の追跡調査で明らかになったのは、HbA1cが正常な人では心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の発症リスクが11%だったのに対し、糖尿病予備群の人は18%と高かったということ。年齢、性別、BMI(肥満度を表す体格指数)、血圧、コレステロール、睡眠時無呼吸症候群、喫煙、末梢動脈疾患といった心血管疾患のリスクを上げる他の要因を考慮しても、糖尿病予備群は心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高いことが分かりました。

 研究を行った医師は「糖尿病予備群の段階で、主要な心血管疾患の危険性がほぼ2倍に上昇。糖尿病に進行しなくても、心血管疾患の危険性を大幅に高める」と述べています。

 糖尿病予備群は「糖尿病になりかけているものの、まだ糖尿病ではない」とよく言われます。たしかにそうなのですが、米国の調査結果を見ると、「まだ糖尿病ではない」という、どちらかというと安心に傾く考え方は適切ではないでしょう。米国人と日本人では体質も食生活も異なるので、米国の調査結果をそっくり日本人に当てはめられないとはいえ、深刻に捉えるべきです。

 血糖値は、「正常型(糖尿病ではない)」「境界型(糖尿病予備群)」「糖尿病型(糖尿病)」の3つに分けられます。

 正常型は、空腹時血糖値が100㎎/デシリットル未満でHbA1cは5・6%未満(日本の場合、以下同)。一方、空腹時血糖値が126㎎/デシリットル以上かつHbA1cが6・5%以上は糖尿病型で、空腹時血糖値またはHbA1cのどちらかが高い場合は、再検査が必要となります。

 そして、正常型よりは数値が高く、しかし糖尿型まではいかない場合が境界型糖尿病、すなわち糖尿病予備群です。検査数値は、空腹時血糖値110~125㎎/デシリットルかつHbA1cが6・5%未満となります。

 自分が糖尿病予備群なら? 今日からできる方法としては、インスリンの働きを悪くする要因をできる限り取り除くことです。

 まずは、食べ過ぎを抑える。1日の摂取カロリーを、ざっくりでいいので把握しましょう。細かく覚えなくても、よく食べるメニューのだいたいのカロリーを調べ、「夜にこれくらいのカロリーを取るので、朝、昼はカロリー抑えめのメニューにしよう」「昨日は食べ過ぎたので、今日は控えめに」などと、1日や数日単位で調整できるといいですね。毎日同じ時間、同じ条件で体組成計に乗り、体重、体脂肪率をチェックするのも、食べ過ぎを減らす方法としてお勧めです。

 次に、日常的に体を動かす習慣をつける。食後のストレッチ、朝の散歩、出勤で1駅歩くなど、継続できる方法で構いません。

 ただ、糖尿病予備群の中には、より注意が必要な人もいます。それについて、次回のこの欄で紹介したいと思います。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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