コロナ禍での2年目の夏…万全の熱中症対策で酷暑を乗り切る!

 夏本番を迎え、気になるのは新型コロナの感染と熱中症の広がり具合。熱中症で昨年の夏は6万5000人近くが救急搬送されたが、酷暑が予想されているこの夏も熱中症リスクは高止まりの様相である。万全の熱中症対策で酷暑を乗り切るにはどうすればいいのだろうか。

■水分だけを大量に摂ると、かえって熱中症を悪化させる

「熱中症で言えるのは、猛暑の夏は熱中症になる人が多いということです。最近では2018年、その前は2013年が猛暑の夏で、熱中症患者が激増しました」とは、帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長でもある帝京大学医学部の三宅康史教授。

「熱中症には、『労作性熱中症』と『非労作性熱中症』と呼ばれる2つのタイプがあります。暑いと汗をかいて水分が体から失われますが、プラスして、肉体労働やスポーツをすると体自体が熱をつくり出します。こうして起こる熱中症が『労作性熱中症』。一方、『非労作性熱中症』は、家の中で何もしていなくても熱中症になってしまうもので、暑い環境に長くいることが原因です」

 どちらにしても、体が熱くなるので汗をかいて、打ち水のように気化熱で身を冷やそうとする。クルマにたとえれば、エンジンがつくり出した熱をラジエーターで冷やすようなものだ。

「エンジンを酷使し過ぎるとオーバーヒートしてしまいますが、暑い環境の中、休憩をしないで肉体労働や運動をし過ぎたりすると、私たちの体でも同じような現象が起こります。また、ラジエーターの水が少なくなり過ぎてもオーバーヒートしてしまいますが、これは、汗をかいて脱水症状で血液が少なくなっているのに水分補給をしないのと同じこと。体を巡る血液の量が減ってしまうと、さまざまな臓器にとって大切な酸素やエネルギーを運び込めなくなると同時に、いらなくなったものを運び出すこともできなくなってしまう。これがさまざまな不調を引き起こす熱中症の正体なのです」

 水分補給は熱中症対策の基本の「き」だが、水分補給だけではかえって熱中症を悪化させることもあるそうだ。

「汗を大量にかくと、体内の水分とともに塩分やミネラルも奪われてしまいます。そこに大量の水分補給だけを行うと、血液中の塩分やミネラルの濃度が低くなり、逆に、熱中症を悪化させてしまうことがあります。塩分は高血圧にはよくないので難しいところですが、熱中症の場合には必要なものと考えてください」(三宅教授)

三宅康史氏(帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・帝京大学医学部教授)
梅雨明け後、要注意、暑さに慣れる「暑熱順化」を

 暑さに体を慣らすことを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」と言うが、この「暑熱順化」が熱中症のリスクを低減させる大事なポイントだと三宅教授は話す。

「梅雨明け後、いきなりの猛暑で熱中症になる人が急増するのは、暑さに慣れていないため。つまり、『暑熱順化』ができていないからです。コロナ禍の巣ごもり生活は、暑い中、外に出かけないから熱中症になりにくいという一面はありますが、例えば、冠婚葬祭などで出かけなければいけない日が、たまたま日差しが強く酷暑であれば、暑さ慣れをしていないので熱中症になる危険性が高まります」

「暑熱順化」するには、どうすればいいのだろうか。

「涼しい朝夕に散歩をして汗をかくようにするとか、ひと駅手前で電車を降りて家まで歩き、帰ったらすぐにシャワーを浴びるようにしたりすれば、『暑熱順化』しやすくなります」

 熱中症の応急処置は、「FIRE(ファイアー)」という言葉で表現されている。

「Fはフルードで水分補給、Iはアイシングで体を冷やす。冷たい飲み物はFとIを同時にできます。Rはレストで頑張っている身体を休ませること。涼しいところで休ませればIも同時に叶えられます。Eはエマージェンシー・コールで人や救急車を呼ぶことです」

 自分で水が飲めない、あるいは意識がはっきりしていないようなら、すぐに救急車を呼ぶ決断をしたいものだ。

▽三宅康史氏(帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・帝京大学医学部教授) 帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長で、帝京大学医学部救急医学講座教授。さいたま赤十字病院救命救急センター長、昭和大学医学部教授などを経て、2016年から現職。著書に「現場で使う!! 熱中症ポケットマニュアル」がある。

塩ヨーグルトと夏野菜が対策のキーワード! 実は先人から伝わる知恵

 マスクの着用などで脱水症状が潜んでいるにもかかわらず、そのことに気づかないで熱中症を引き起こす人も少なくない。コロナ禍の夏は、例年以上に水分補給と体温調節の対策を意識する必要があるのだ。しかし、水分補給だけでは熱中症が悪化することも。水分とともに体から失われた塩分の補給も不可欠なのである。

「夏には、意識的に『塩ヨーグルト』を飲んだり食べたりして、体に摂り入れてほしいですね」と話すのは、「塩ヨーグルトをはじめよう」の著者で、料理研究家・栄養士の佐藤わか子さん。

「たとえば、インドやイラン、ブルガリア、トルコなど、昔からヨーグルトを食べている国では、先人から伝わる知恵として、ヨーグルトに塩を加えた飲み物が夏の風物詩になっているのです。私はさまざまな国を訪れ、塩ヨーグルトスープを飲んできましたが、体がクールダウンするだけでなく疲れが取れて元気になることを自分自身で実感したのです」

 その冷たいスープは、プレーンのヨーグルトに塩を入れ、水と2対1、あるいは1対1の割合で割ったものにニンニクのすり下ろし、キュウリなどの夏野菜、ハーブなどを入れて作る冷製スープだったそう。

「私はヨーグルトを水で割った150〜200㏄に、塩をひとつまみ入れて飲んでいます。この冷たい塩ヨーグルトドリンクが体の中にこもった熱を適度に冷ましてくれて、気持ちもすっきりとするんです。ヨーグルトを昔から食べている国では、夏を元気に乗り切るために、何百年、何千年も伝承されてきた英知なんですね」

料理研究家・栄養士の佐藤わか子さん

 だが、熱中症対策なら水に塩を加えたものでもいいはず。どうして“塩ヨーグルト”なのだろうか。

「ヨーグルトの乳タンパクには水分を体内にとどめる効果があることが分かっています。ミネラルやビタミンB群も豊富です。ヨーグルトに水を混ぜ、これに塩分を加えてレモンをちょっと搾れば、さっぱりして飲みやすい熱中症対策ドリンクとして活用できます。熱中症に気をつけなければいけないシーズンには、塩ヨーグルトは注目したい食品だと思いますね」

 また、ヨーグルトと言えば乳酸菌だが、乳酸菌で腸内環境を整えることは、自律神経の働きを助けることに繋がることが知られている。体温の調節機能は自律神経が担っているので、こうした面からも熱中症の予防に役立つと考えられるのだ。

「夏バテ状態だと、体の機能もうまく働かなくなって熱中症にもなりやすくなってしまいます。特にコロナ禍の夏は家で食べることが多いので、料理にバリエーションを持たせて『食を楽しむ』ことが大切です。ヨーグルトと夏野菜を使った料理で異国の雰囲気を楽しむのも、巣ごもりのストレス解消に役立つかもしれませんね」(佐藤さん)

 世界の先人の英知を活かし、旬の夏野菜をたくさん食べ、水分を体内にとどめる効果のあるヨーグルトに塩を少し加えるといった知恵を働かせることが、この夏の熱中症対策につながるのではないだろうか。

▽佐藤わか子さん(各国料理研究家、栄養士) 静岡県生まれ。各国にホームステイをして家庭料理を学んだ後、日本をはじめとする世界各国の料理を開発。雑誌やテレビ番組、WEBサイトなどでレシピを紹介し、執筆でも活躍中。「塩ヨーグルトをはじめよう」(文藝春秋)など著書も多数。

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