がんと向き合い生きていく

抗がん剤治療中でも白血球数が減っていないならワクチン接種を

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 長く続く新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の流行で、老人だけでなく、若い人も、元気で死ぬはずのない人も、急に亡くなっています。毎年繰り返してきたインフルエンザ流行とはまったく違います。「屁みたいなもの」と言った方がいましたが、COVID―19をまったく知らない方の暴言です。

 死ぬはずのない人が、死ぬ。これがCOVID―19の特徴です。料理人の神田川俊郎さん(享年81)は、4月16日に発病し、同25日に亡くなりました。発病する直前までとても元気だったそうです。

 乳がんの手術後に骨転移が見つかり、通院治療中の女性(56歳)から質問がありました。

「私は抗がん剤治療を受けています。きっと免疫力が落ちていると思います。もし、コロナに感染したら重症化しやすいのではないでしょうか? 担当医からコロナワクチンを接種した方がよいと言われました。先生は、どう思われますか?」

 詳しくお聞きすると、この女性にはホルモン療法と抗がん剤治療が行われていました。先週の検査では、白血球数は4000/マイクロリットルだったそうです。

 私は「担当医が勧めるようにコロナワクチン接種を受けるのがよいと思います」と答えました。 厚労省はコロナワクチン接種を受ける順番を、①医療従事者等②高齢者(65歳以上)③基礎疾患を有する者④それ以外の者としました。

 この優先順の理由は、新型コロナウイルスの感染によって重症化しやすく、死亡者が多くなるリスクを考慮してのことだと思います。

■がん治療が遅くなる方が心配

「基礎疾患を有する者」の中に、「免疫の機能が低下する病気(治療中の悪性腫瘍を含む)」とあります。抗がん剤治療中の方は、この中に入ります。白血病などで強力な抗がん剤治療が行われ、もし白血球数が極端に減っている場合は「回復するまで待つ」、つまり「それまでワクチン接種を遅らせる」ことを考えます。白血球数が極端に減った時は免疫が強く抑制されていますから、ワクチンを接種しても効果が得られないのです。

 しかし、一般的な抗がん剤治療で白血球数が極端に減らない場合は、ワクチン接種は行うべきと思います。むしろ私は、COVID―19を心配されて抗がん剤治療が遅くなったり、量を少なくして弱くしたりすることが心配です。

 がん治療中の患者にとって、ワクチン接種は大切なことです。いずれにせよ、担当医と相談されるのがよいでしょう。

 最近の変異型ウイルスは感染力が強いと報道されています。3密(密閉・密集・密接)を避けていても、マスク装着や手洗いを行っていても、感染した方がいることも分かっています。どこでうつったか分からない、感染予防対策をしていても感染しているのです。

 またある市では、地元の方が観光客への勧誘で「人の移動だけではうつらないので、どうぞおいでください」と言われていました。ウイルスは人と共に移動します。人が移動すれば、移動した先では当然、飲食もします。うつるリスクはさらに増えるのです。

 感染していない方が、感染のない街へ移動する場合は、誰が考えても問題ないのですが、今やほとんどの県で毎日多数の感染者が発生しています。「感染防止徹底宣言ステッカー」を掲示した店舗でも、感染が起こっています。たくさんの人の移動・集合で感染者が増えること、その結果、新たな毒性の強い変異株が生まれることがとても心配です。

 COVID―19では、われわれはもう1年半もずっと我慢してきました。早く、本当に安心できるような暮らしを取り戻さなければなりません。COVID―19の犠牲者を出さないようにしなければなりません。

 ワクチン接種は、特別な方を除いて、一般の方も抗がん剤治療中の方も早く行うべきです。命最優先が何より大切です。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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