独白 愉快な“病人”たち

コロナかも…ほいけんたさん細菌性肺炎の不安を振り返る

マイマイクで100点を出すほいけんたさん
マイマイクで100点を出すほいけんたさん(C)日刊ゲンダイ
ほいけんたさん(ものまね芸人・55歳)=細菌性肺炎

 去年の1月、「100点出したら賞金100万円」というカラオケの生放送番組で、見事に100点を出したところからこの話は始まります。

 番組プロデューサーから「8月末にも同じ企画をやるから2連覇を目指して出演してほしい」と打診があったので、「よっしゃ」と気合を入れてすぐに練習を始めました。緊急事態宣言でカラオケ店が休業しても車の中で歌い、コロナに感染しないよう人混みや電車を避け、用心に用心を重ねながら生活していました。

 ところが7月30日、「ちょっとだるいな」と思って熱を測ってみたら、37度ちょいありました。平熱が35.8度の僕にとっては微熱の範囲を超えています。「ほいけんた、コロナか?」という“見出し”が頭の中に躍りました。2日後には、カラオケ番組とは別のものまね番組の打ち合わせとリハーサルを控えていたので、翌日、病院を受診したのです。

 あらかじめ病院に電話をしたときには熱は36.5度になっていたので、コロナのコの字も疑われずにノーチェックで入り口を通過。「大丈夫か?」と思いつつ、診察では軽い問診と口の中をちょっと診ただけで「夏風邪でしょう」と診断されて終わりでした。結局、解熱剤を出してもらい、翌日のリハーサルも無事に終了しました。

 でも、そこから4~5日経っても平熱に戻らず、微熱があってだるい……。「やっぱりコロナなんじゃないか?」と思い始め、「よし、セカンドオピニオンだ」と違う病院を受診しました。でも、熱が37度に達していなかったので、またもやコロナは疑われませんでした。それでも、これまでの経緯を伝え、「夏風邪じゃないと思うんで、ちゃんと調べてください」とお願いしたところ、血液検査とCT検査になったんです。

 検査を終え、診察室に入ると、担当の先生が「テレビに出ているんですか? 看護師さんたちが喜んでましたよ」と軽い雑談を始めました。「こりゃ何でもなかったんだな」と安心して、「何だったんですか?」と尋ねると、急に顔色が変わって「まずいです」と一言。「え? コロナですか?」と聞いても、「コロナじゃない」とおっしゃる。さらに「コロナじゃなくてまずいとは何ですか?」と聞くと、「イヤな影があるので大学病院を紹介します」と言われたのです。

「CTでコロナじゃないことが分かるんだ」という発見とともに、モヤモヤした恐怖、精神的ダメージを抱えながら、紹介された大学病院へ行きました。今度は血液の精密検査、レントゲン、造影剤を使ってのCT、心電図、エコーとあれこれ検査されました。

 検査後、先生から「コロナじゃないことは分かりました。細菌がいたずらをしているかもしれません」とのお話があり、解熱剤と抗生剤を処方されました。その後、熱は36度前後をキープ。でも1回だけ37.8度のときがあったのが運のツキでした。数日前にリハーサルを終えたものまね番組の収録前日にテレビ局に連絡すると、「この2週間で1回でも37.5度以上の熱が出た人は入館できません」と言われてしまいました。もちろん出演もできませんでした。

■胸に痛みを感じロングトーンが続かない

 この1年、イベントはなくなるし、収入はガタ落ち。

 ただただ貯金を切り崩すだけの生活です。「こうなったら、カラオケ番組で2連覇して100万円取るしかない!」と奮起しまして、平熱に戻ってきた8月半ばからカラオケ店に通い始めました。

 並行して通院も続け、行くたびに採血とレントゲンを撮られました。「細菌がいたずらをしている」としか分からないまま、100万円がかかったカラオケ番組の本番は迫ってきます。でも、追い込み練習をしていると胸に痛みを感じるのです。肺活量に問題があるようでロングトーンが続かない。絶対に100点が出せる歌い込んだ歌でも、満点に届かないのです。

 そんな調子で迎えた本番は、案の定100点に届かず賞金は取れずじまい。それに懸けていたので落ち込みましたよ。

「細菌性肺炎」と病名が分かったのはそれから半月経った9月の半ばでした。すでに肺にあった影はほぼなくなり、本来の肺活量を取り戻していました。幸い後遺症はありません。

 でも、実は今回のことでひとつ心残りがあるんです。病院で「ほいさんですよね」と声を掛けてくれた人に、「近くに来ないで!」と、とっさに言ってしまったことです。ひょっとしたらコロナかもしれないと思っていたので……。

「悪いことしたな」という思いがあり、最近は求められれば握手をして「あとでちゃんと手洗ってね」とジョークっぽく付け加えるようにしています。「いや、もう一生洗いません」なんて言ってもらえるとウソでもうれしいものなんですけど、つい先日、ショッピングセンターで声を掛けてくれた男性は握手してすぐ2、3歩先にあった消毒スプレーをシューッて……。もちろん、それでいいんです。でも、せめて僕が見えないところでやってほしかったな(笑い)。

(聞き手=松永詠美子)

▽ほい・けんた 1965年、東京都生まれ。17歳でアクションスターを目指し芸能界入り。俳優としてデビューし、お笑い芸人として活動。マジック、バルーンアート、パントマイムもこなし海外イベントに参加するなど活躍の幅を広げる。1993年に明石家さんまのものまねでブレーク。今や明石家さんまの再現ドラマに欠かせない存在。歌うま芸人としても知られている。

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