突然、肩に痛みが…中高年は「肩腱板断裂」に気をつけろ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが日常になっているせいか、最近、ファミレスや喫茶店でパソコン機材を広げ仕事をしている中高年を見かける。昔に比べれば軽量化されたとはいえ、年々衰える肉体にパソコン、電源、書類などが詰まったビジネスバッグを抱えて歩き回るのは大変だ。なかには、そのせいで肩に異変を感じる人もいるようで……。「みずい整形外科」(東京・祐天寺)院長の水井睦氏に聞いた。

「右肩が痛くて痛くて。最初は五十肩かと思ったのですが、手を上げると腕に力が入らないだけでなく、腕を伸ばすと痛い。手を背中に回そうとしたり、お風呂掃除でバスタブを洗おうとしたり、駐車券を取ろうとすると、ひどく痛むのです」

 こう言うのは都内在住の50代男性だ。3カ月ほど前から痛みが出て、寝ているときに右腕を下にしているだけでも痛いと、こう続ける。

「同い年の妻が五十肩で苦しんでいたので“オレもそうだろう”と納得させていたのですが、どうにも痛みが取れない。そこで整形外科医院で診てもらったところ、右肩腱板断裂だというのです」

 腱板とは、肩の関節を安定させる働きを持つ4つの筋肉(肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋)の総称。その一部は肩関節の骨と骨の間に挟まれたところを通る。そのため、使い過ぎによってすり切れることがあるという。また、老化によっても腱が弱くなり切れやすくなる。そのため60代では4人に1人、70代では半数が腱板断裂になっているといわれる。

「基本的には腕を頭より上に上げることが多い大工さん、塗装業に携わる人、テニスや野球、バレーボールなどのスポーツをする人がなりやすいといわれています。しかし、ケガなどのはっきりした原因がない場合でも年齢によっては、肩を強く打った、手をついた、転んだ、重いものを持ち上げたなど日常生活のささいなことで腱板断裂が起こることもあります」(水井氏)

 いわゆる四十肩、五十肩と間違われやすいが、腱板断裂は、上腕の骨と肩甲骨をつなぐ腱が切れてしまう状態のこと。これに対して四十肩、五十肩は、肩の動きが悪くなり、炎症が起きて痛みが出ることをいう。四十肩や五十肩は自然に治まることが多いが、一度切れた腱は元に戻ることはない。

■痛みを取り除く治療法は?

 腱板断裂の診断は、問診と身体所見、超音波検査やレントゲン、MRIなどで行われる。主な症状は、肩の深い位置にある重い痛み、寝ているとき(とくに断裂した方の腕を下にしたとき)の痛み、手を上や背中に回したときの痛み、腕を繰り返し動かすとだるくなってくる、など。他に肩を上げるときに力が入りにくくなったり、肩の上前面で音がすることもある。

 なお、断裂するのは、酷使されがちな利き腕側の肩腱板が多い。

「断裂には完全断裂と不全断裂があります。不全断裂は、関節に近い方の関節面側の断裂と、遠い方の滑液包側の断裂にわかれています。ただし腱板断裂の全員に痛みが生じるわけではありません。実は、6割の人は腱板断裂があっても痛みを感じないとされています。痛みのある人には炎症が確認され、断裂があっても痛くない人は炎症が乏しいことが報告されています。このことから、炎症が長引くことで痛み症状が出ていると考えられます」(水井氏)

 では、具体的に痛みを取り除くには、どうしたらいいのか?

「しばらく安静にしているとある程度は痛みが取れますが、それでも痛みがある人には痛み止めなどの内服薬を出します。さらに夜に眠れないほどの痛みが続けばステロイド(副腎皮質ホルモン)や麻酔注射をして痛みを和らげます。それで痛みが取れる人もいますが、なかには定期的に注射が必要となる人もいます。また、痛みが取れると肩甲骨や胸郭、肩関節のトレーニングによって周囲の筋肉を鍛え、断裂した筋肉を補うリハビリが必要となります。こうした保存治療では改善しない場合は、手術を受けることもできます」(水井氏)

 手術は、数カ所の穴を開けて関節鏡と呼ばれる内視鏡を挿入して治療する方法と、皮膚を小さく切って実際に断裂した腱板を見ながら治療する方法がある。手術後は1カ月程度、肩を固定し、その後2~3カ月リハビリテーションを行うのが一般的だ。

 心当たりがある人は、まずは整形外科で診てもらおう。間違っても病院の前にマッサージに行ったりしないこと。症状が悪くなることもある。

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