進化する糖尿病治療法

予備軍の中でも脳卒中・心筋梗塞のリスクがより高い人は?

写真はイメージ
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 血糖値が正常より少し高いが、糖尿病と診断される値よりは低い糖尿病予備群は、そうでない人と比べて、心筋梗塞、脳卒中のリスクが高くなる。米国の疫学調査では、リスクがほぼ2倍高いとの結果が出ています。

 その理由として、血糖値を下げるホルモンであるインスリンがすでに出にくくなったり、効きにくくなっている点が挙げられます。インスリンの働きの低下は、糖尿病と診断されるずっと前から始まっているのです。

 また、「血糖値が正常値より少し高い」ことが、全身の血管にダメージを与え、動脈硬化の進行につながっています。糖尿病ほど高くなくても、血管へ与えるダメージは小さくないのです。

 この糖尿病予備群ですが、さらにもう少し突っ込んで言うと、心血管疾患のような重大病を引き起こすリスクが非常に高い人と、それほどでもない人がいます。最も注意すべきは、「脂質異常症がある」「高血圧がある」「家系に糖尿病患者がいる」「家系に心筋梗塞/脳梗塞患者がいる」「食後の血糖値が高い」に該当する人。該当する項目が多いほどにリスクは高いと考えてください。

 一方で、比較的リスクが低めなのは、高血圧や脂質異常症がなく、家系に高血圧患者がいなくて、空腹時だけ血糖値が少し高くなる人です。同じ糖尿病予備群であっても、危険度が大きく異なってきます。

 脂質異常症または高血圧かどうか、家系に糖尿病患者がいるかは、すぐにチェックできます。問題は食後の血糖値です。

 血糖値の高さを確認する代表的な検査は、空腹時血糖値、75グラム経口ブドウ糖負荷試験、HbA1cがあります。健康診断も人間ドックも、基本的に血糖値は空腹時に測定します。食後の血糖値を知るには、75グラム経口ブドウ糖負荷試験を改めて受ける必要があります。

 これは、検査当日の朝まで10時間以上絶食した空腹のまま採血し、血糖値を測定し、その後にブドウ糖75グラムを水に溶かしたものを飲んで、30分後、1時間後、2時間後に血糖を測定する検査です。

 この検査で、食後の血糖値の上がり具合、インスリンの分泌はどうかなどを調べることができます。

 日本人は欧米人と異なり、食後の血糖値が高い人が多いといわれています。だから食後の血糖値のチェックはとても重要なのですが、一般的な健診では空腹時血糖値しか見ません。だから、食後の血糖値が高くても「異常なし」となってしまうこともあり、かつては「隠れ糖尿病」とも呼ばれていました。

 糖尿病予備群とはいえ糖尿病が確定していない人では、75グラム経口ブドウ糖負荷試験を受けるのは、現実的ではないでしょう。半日は会社を休んで行かなくてはなりませんからね。

 食後の血糖値がどうかを調べるには、持続自己血糖測定器(商品名リブレ)を購入して測ってみるのが、一番手っ取り早いと思います。自分自身で操作して血糖モニタリングを行える機器で、インターネット上でも手が出やすい値段で販売されています。

 食後の血糖値が高ければ、糖尿病予備群であっても、より一層気を引き締めて対策を講じなければなりません。日本では、75グラム経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が高いタイプの糖尿病予備群の人は、「ボグリボース」というαグルコシダーゼ阻害薬0・2ミリグラムが保険適用になっています。この薬の糖尿病(2型)の発症予防効果は40・5%程度とされています。

 ただし、糖尿病と同様に、糖尿病予備群も、薬を飲めば万事OKではありません。生活習慣改善が不可欠です。フィンランド、アメリカ、中国、インド、日本などで行われた研究で、食事・運動療法や減量をきちんと行った人は、行わなかった人と比べて糖尿病発症リスクを29~67%下げられるといわれています。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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